趣味で歌と小説と詩を掲載させていただいてます。

流星のうた 第22話 Song of the meteor



第22話


美和はあの池を確認しに行ってから、学校にいてもバイトをしていても、どこか頭の隅であの夜の池のことを考えていた。

昼から夜に、その領域を移行させる森と、水をたたえた黒く透明な池。
漆黒に溶け合った感覚と音の世界。

美和は都会での現実の生活と、ほんの少し車で走ったところにある山中の風景が同じ世界だということにうまく馴染めないでいた。
登山部の時に見た風景とはまた感じ方が違っていた。

一つの現実を知り、それを受け入れた後では、世界はその意味を大きく変えていく。

この世界はこの間までの世界とは違う。
美和はそう感じていた。

美和は、葵の言ったことを思い出していた。

地球(葵はシキと言っていた)は生命体で、そして弱ってきている。声を失っている。

地球が命を宿した生命体だとして、もしもその命が尽きてしまったとしたら、それはどんな世界なんだろうか。

美和はまた、何かの映画の世界が頭の中に展開しそうになったので、それについて考えるのをやめた。そしてぼんやりと現実の街を見る。

人々は働き、生活し、その中で家族を持ち、年老いて死んでゆく。
生は突然やってきて、気がつくと人生が始まっている。
表面的には、花開く人生もあれば、報われない人生もあるだろう。でもその価値は、その人生を生きた本人にしかわからないのではないだろうか。
自分の両親は普通のサラリーマンと平凡な主婦だ。決して安くない学費を工面してくれている。
誰に褒められるわけでもないが、美和は立派な価値ある人生だと思う。自分も両親のように生きられればそれでいいと思っている。

鬼か。その人生に価値を見出せるのかどうかは、たぶん葵自身の問題なんだろう。

美和はその一方で、自分がなんのために生きているのか、葵に比べると恐ろしく不確かなものではないかとも感じていた。
葵には確かな目的がある。やるべき事柄があり、探すべきものがある。受け入れた事と、それと引き換えに手放した事がある。

自分は大学で看護を学んでいる。資格を身に付けて生きるためだ。どこに出しても恥ずかしくない目的なのかもしれない。少なくとも、少し前まではそう思っていた。
ただ今思うのは、それは「自分が生きるための目的」だということだ。本気で人を救うために大学で学んでいるわけではないのだ。

以前、学校でナイチンゲールのことを学んだことがある。当時病人の手伝い程度だった看護を、専門知識の必要な職業にまでその価値を見出し、現場の最前線で働いた。
病室の窓を開け放ち、病人やけが人を隔離から解放した。その功績は「クリミアの天使」と呼ばれた。
彼女のような人間こそが、本当は看護師を目指すべきなのではないのだろうか。
自分にはそこまでの覚悟はない。現実の人生をうまく切り抜けるために今を生きている。少なくとも今はそうだ。たぶんそれが現実を生きるということだと思う。

美和は自分や現実の世界が今どこに向かっているのか、わからなくなる。

自分のために知識やスキルを磨くことも、それが人のためになるのであれば言うことはない。
でもそれはどこに結びついていくのだろう?

表面的な世界は日常にいくらでも見えてくる。大多数の人々が慎ましく生き、その営みはこの地球上で目まぐるしく動いている。

タナベと車で山から下りてきた時、その現実は大きな不自然さを含んでいるように感じられた。何かにその現実を押し付けられているのかもしれない。何か自然の流れではないものがそこにはあるのかもしれない。私たちが服を着なければならないように。

何もかもが均一さをまとい、ルールを設け、常識を重んじる。それが正しいことなのかも曖昧になってきた。
社会の常識とは誰がどこで決めるのだろう。その常識には、例えばシキの命の事柄は記されているのだろうか。
星や龍に思いを馳せる人間がこの世の中にどれだけいるのだろう。

情報が分断されているのかもしれない。
ひとつながりの情報は、バラバラに分断されていて断片的に伝えられているだけかもしれない。
地球が生き物であるという情報はどこか別の場所では真実であり、それはバラバラにされて金庫にでも保管されているのかもしれない。
金庫の管理人は時々そのバラバラのピースをつなぎ合わせ、その事実を確認する。
確かに地球は生きていると。

もしも星に命があるとしたら、そこには感情のようなものはあるのだろうか。そんな情報もバラバラにされて金庫に閉じ込められているのかもしれない。
生き物ならば動物にだって感情はある。
草や木も昼間と夜の領域が違うように、その感情も自分たちには推し量れない何かがあるのかもしれない。会話ができないという物理的な判断だけで命に宿る感情を否定することはできないはずだ。

通りを行き交う人々を見ながら、美和はなにかこの現実の世界が色塗りされた世界だという気がしてきた。
あの、山から下りてきた時の違和感は、ぼんやりとした感覚で美和を包んでいた。

本当の世界はこんな色ではないはずだ。何かがこの鮮明な世界に不自然な色をつけている。


葵は出て行く前に、そんなに多くない荷物のほとんどを置いていった。
獣になればこんな荷物も要らなくなる、と言いながら小さなリュックに小さな荷物を詰めた。「人間の間だけなんだ、こんなものが要るのは」まとめられた荷物を見てそう言った。

この世界は一体何なんだろう。自分はどこに向かっているのだろう。




Episode 22


Miwa had been thinking about that pond in the corner of his head somewhere, even if I was in a school or playing a part - time job after going to check that pond.

From the daytime to the night, the forest that shifts that area and the black transparent pond that pounded water.
A world of sense and sound that blended in jet black.

Miwa was not familiar with the fact that the real life in the city and the landscape in the mountains in the place where I ran a bit with the car are the same world.
The way I felt was different from the scenery I saw at the time of the mountain climbing section.

After knowing one reality and accepting it, the world will change its meaning greatly.

This world is different from the world until now.
Miwa felt that way.

Miwa remembered what Aoi said.

The earth (Aoi was saying shiki) is an organism, and we are getting weaker. I have lost my voice.

If the life is exhausted as the earth is a living entity with life, what kind of world is it?

Miwa also ceased thinking about it as the world of something movie seemed to unfold in her mind. And I look idly and real town.

People work and live, have families in them, grow older and die.
Life suddenly came, and life began when you notice. On the surface, there will be life blossoms, some life will not be rewarded. But I wonder if the value is only understood by the person who lived that life.
My parents are ordinary salaried men and ordinary housewives. It is never cheap to me. I can not praise anyone, but I think Miwa is a worthy life. I think that I can do with it if I can live like my parents.

A demon? Whether we can find value in that life is probably Aoi's own problem.

On the other hand, Miwa felt that he was living for himself and what he was terribly uncertain as compared with Aoi.
Aoi has a certain purpose. There is something to do and there is something to search for. There is something I have accepted and sometimes let go in return.

I am studying nursing at a university. It is to live by acquiring qualifications. It may be an embarrassing purpose no matter where you put it out. At least, I thought so long ago.
I think now that it is "the purpose for living". It is not that he is learning at university to serve people seriously.

I used to learn about Nightingale at school before. I found the value of nursing, which was the extent of the help of sick people at that time, to the occupation that needed specialized knowledge, and worked at the front line of the site.
Opened the window of the hospital room, freeing the sick and injured from isolation. That achievement was called "Angel of the Crimea".
I wonder if people like her should really aim for a nurse.
I am not ready for that. I live my present life to succeed in real life. At least now it is. Perhaps it is that it is living reality.

Miwa will not know where I am and the real world is going now.

There is no way to hone his knowledge and skills for myself, if it is for others.
But where will it tie?

You can see the superficial world in your daily life. The vast majority of people live modestly, and their activities are swiftly moving on this planet.

When I came down from the mountain with Tanabe and a car, I felt that the reality contained large unnaturalness. It may be squeezed into reality to something. There may be something that is not a natural flow. Just like we have to wear clothes.

Everything is dressed in uniformity, rules are set, and common sense is respected. It has become ambiguous whether it is correct or not.
Who and where will decide common sense in society? Does that common sense say, for example, the things of the life of the shikku are written?
How many people can think of stars and dragons in this world?

Information may be divided.
The information of one piece may be fragmented and divided only by pieces.
The information that the earth is a living thing is somewhere true in another place, it may be broken up and kept in a safe.
Shelf managers occasionally join pieces of their disjointed pieces and confirm the fact.
Certainly the earth is alive.

If there are lives in the star, is there something like emotion there? Such information may also be scattered and confined in the safe.
Even animals have feelings if they are living things.
There may be something that the emotions can not be inferior to themselves, as grass and trees also differ in the day and night areas. It is impossible to deny emotions living in life only by physical judgment that conversation is impossible.

While watching the people going along the street, Miwa came to feel that this real world is color-painted world.
Um, the strangeness when I came down from the mountain was wrapping Miwa with a vague sensation.

The real world should not be such a color. Something is drawing an unnatural color in this clear world.


Before going out, Aoi left most of the cash that I had and the baggage that was not that much.
I packed a small baggage in a small backpack while saying that if you become a beast you will not need such a baggage. "It's only for human beings, I need something like this" I looked at the packages that were put together and said so.

What on earth is this world? Where is he going?

流星のうた 第21話 Song of the meteor 21



第21話


足の甲にも獣の毛が生え始めている。足の裏はさらに皮膚が分厚くなっていた。
それに親指の形状が少し変わり始めているようだ。 獣へは骨格ごと変化する。

獣の完全体になったのは白い獣の時だけだ。その後、再び鬼に生まれてから後は一度も完全体になったことはない。変化が始まるか、終わる前に人を殺めたからだ。
自然に、飢えるままにいれば獣の完全体になる。記憶としてそれはある。

山に入ってから、葵は古い記憶の通り木の実や草を食べた。
記憶を向ける方向を少し変えてみれば、おりょうや佐吉との暮らしや、その頃の町人たちとの会話が蘇ってくる。人に混じり、共に暮らした。人間の生きた知恵や技術も豊富に蘇ってくる。
昔の日本人は自然から多くの恵みを受けて生きていた。六甲山の自然はそれを試すのにちょうどいい。
葵は昼の間、山を歩き木の芽や山菜を採った。
寝ぐらと呼べそうな洞穴も見つけた。崖の中腹にあるその洞穴からは向かいの斜面の紅葉が見えて、朝はなかなか綺麗だ。下には沢が流れていて水はそこで水筒に汲める。水道もいたるところにあるので人間の間は利用できる。
ここは、今の自分には一番生きやすい場所かもしれない。

葵は山に入って六甲山の大体の地形と植生を把握した。この山を追われた時のルートも同時に考えていた。獣の姿になれば街には降りられない。北か東の山を目指すしかない。
街へ出るとしたら夜中だ。もう靴を履いていないのだ。


獣になる前にもう一度凛太朗に会っておきたい。葵は変化が進む身体を感じてそう思った。
葵はその日の夜、街へ降りることにした。


夜中、街がようやく寝静まったのを見て、葵は山を降りた。

道路を歩かず、木や塀を伝い用心しながら凛太朗のいる施設を目指した。
川に降りて一気に南へ下り、美術館まで来ると敷地に生えている大きな楠に登り、隣の凛太朗のいる施設の様子をうかがった。

二階建てのコンクリートの建物はどの窓も明かりが消えていて街灯だけが眩しい光を通りに落としていた。
人気のないことを確認して、葵は施設の敷地に飛び降りた。
幾つかの部屋の窓は小さく開いていた。

葵は凛太朗の匂いを探した。鬼の五感は人間よりも鋭い。変化し始めてからは一層鋭くなっている。
施設からは洗剤の匂いや人間の匂いやらが入り混じり、自然界にはないような異様な匂いがしていた。
その中にかすかに凛太朗の匂いがあった。二階のわずかに開いた窓からその匂いは漂っていた。

窓の下まで行ってさらに注意深く確認した。確かにこの部屋から凛太朗の匂いがする。
葵は三歩ほど後ずさりして勢いをつけ、二階の窓までジャンプした。窓枠に足をかけ小さく開いた窓に手をかけた。
部屋のカーテンがわずかに揺れた。そして小さく開いた窓をゆっくりと開け、するりと部屋の中に入った。そこまでほとんど物音はしなかった。

凛太朗はベッドの上で眠っていた。小さく寝息を立てている。
なぜか、葵は凛太朗が以前の凛太朗ではないような気がした。安らかなその寝顔は何かの守護を受けているように柔らかい表情をしていた。

胸が少しざわついた。どくりと鬼の魂が疼く。


貴子は何か胸騒ぎがして目が覚めた。目がさめると嫌な予感は即座に頭をよぎった。何かが施設に入ってきた。時計を見ると夜中の二時半を回ったところだった。

上着を着て部屋を出た。廊下には子供達の部屋のドアが並んでいる。皆静かに寝ているようだ。当直室のスタッフも寝ている。
気配は凛太朗の部屋から漏れていた。貴子は何かわからないが人間ではないということは感じていた。強盗とかそういうものではない。
貴子には昔から何かそういう「感」みたいなものがあった。霊感という言葉が嫌いなので自分ではそれとは違うと思っていた。

気配は明らかに人間ではなかった。貴子は凛太朗の部屋のドアの前まで来ると息を殺して中の様子をうかがった。ただならぬ気配が漏れ出している。邪悪さが気配の中に混じっている。

貴子は深く息をして心に空を思い描いた。青くて聡明な空だ。邪悪さを跳ね返す時、いつもやる儀式のようなものだ。
今までずっとこれで乗り越えてきた。




葵は凛太朗に声をかけた。
「リン、会いに来たよ」

凛太朗は夢の中でその声を聞いた。あおいの声だ。また会えたんだ。

凛太朗は現実と楽園の間で、あおいが夢に飲み込まれてしまうのではないかと思っていた。緩やかに流れ込む守られた夢からの記憶が、あおいを飲み込んであちら側においてきてしまいそうな気がしていた。
それは忘れたくない記憶だった。

「リン 会いに来たよ」
現実の音が聞こえた。凛太朗はぼんやりと目を開けて部屋を見渡した。

ベッドの足元に何かがいた。

あおいだった。
「あおい」と凛太朗は言った。
あおいは凛太朗に少し微笑んだ。凛太朗もそれを見て少し頬を緩めた。

凛太朗は、もう絶対にあおいのことは忘れない。そう思った。


人間の気配がする。ドアのすぐ向こうだ。職員のようだ。葵は意識をドアに集中した。

貴子は急に寒気がした。ゾワッと背中がざわついた。中にいる凛太朗が心配だ。
意を決してドアを開けた。

ベッドで凛太朗が眠っていた。窓が開け放たれ、カーテンが揺れていた。何かがいた気配が漂っていた。
邪悪なもの。人間ではないもの。気配は薄っすらとカーテンを揺らし、徐々に夜の闇に消えていった。

貴子はしばらく警戒していたが少しずつその緊張を緩めて行った。
ふーっと長い溜息をついた。とりあえず災いは行ってしまった。
この少年には何かそういうものを引き寄せる力があるのだろうか。貴子は少年の寝顔をそっと覗いてみた。

少年は何かに守られているような安堵感をたたえて小さく寝息を立てていた。




Episode 21


Hair of beasts is also growing on the instep of the feet. The soles of the feet were further thickened.
And it seems that the shape of thumb is beginning to change a bit. To the beast will change with each skeleton.

Only when it was a white beast it became the complete body of the beast. After that, never once became a complete body after being born again on a demon again. Because the change began or killed the person before the end.
Naturally, if you remain hungry you become a complete body of the beast. It is as a memory.

After entering the mountain, Aoi ate the tree nuts and grass as the old memories.
Try changing the direction of memory a bit, the living with Oya and Sakichi and the conversation with the townmen at that time come back. It mixed with people, and lived together. Many wisdom and techniques of human beings revive abundantly.
The old Japanese lived with a lot of grace from nature. Rokko mountain nature is just right to try it.
Aoi walked down the mountain and took wood buds and wild vegetables during daytime.
I also found a cave that could be called a sleeping lap. From the cave in the middle of the cliff, you can see the autumnal leaves on the slope across the street, which is quite beautiful in the morning. There is a swamp in the bottom, and water can be drawn into a water bottle there. Since the water supply is also everywhere, it is available for human beings.
This place may be the most lively place for me now.

Aoi entered the mountains and grasped the rough topography and vegetation of Rokko Mountain. I was also thinking about the route when I was chased by this mountain. You can not get down to the street if you become a figure of a beast. There is no choice but to aim for a mountain in the north or the east.
If you go out into town, it's midnight. I have not put on my shoes anymore.


I want to see Rintaro once more before becoming a beast. Aoi thought so feeling the body in which the change is going.
Aoi decided to get off the street on that night.


Aoi got off the mountain at midnight when I saw the city finally slept.

While walking on the road, while aware of wood and fence, I aimed for a facility with Rintaro.
I descended to the river and descended to the south at a stretch. As I came to the art museum, I climbed a big Kusunoki growing on the premises and looked at the state of the neighboring Rinchen 's facility.

In a double-storied concrete building the lights were gone in all the windows and only the street light dropped the dazzling light along the street.
After confirming that it was not popular, Aoi jumped into the premises' premises.
The windows of some rooms were small open.

Aoi looked for the smell of Rintaro. The five senses of demons are sharper than humans. It has become sharper from the beginning of change.
From the facility, the smell of detergent and the smell of human beings were mixed, and there was a strange odor which was not found in the natural world.
There was a faint scent of Rintaro in it. The smell drifted from a slightly open window on the second floor.

I went to the bottom of the window and checked carefully. Certainly this room smells Rintaro.
Aoi made a momentum after going back three steps and jumped to the window on the second floor. I put my foot on the window frame and put my hand on the small open window.
The curtain of the room shook slightly. Then slowly opened the small open window, and came inside the room as soon as possible. There was hardly any sound there.

Rintaro was asleep on the bed. I have a small sleeping breath.
For some reason, Aoi felt that Rintaro was not the former Rin Taro. The restful sleeping face had a soft look like being protected by something.

My heart was a little rough. The soul of a demon and a demon is caught.


Takako woke up with something uneasy. The bad feeling instantly crossed my head when my eyes turned on. Something came into the facility. I was just about half past midnight when I saw a watch.

I left the room with my coat on. There are doors in the room of children in the corridor. It seems that everyone is sleeping quietly. The staff of the shooting room is also sleeping.
The sign was leaking from Rintaro 's room. Takako knew something but I felt that he was not a human being. It is not such thing as robbery.
Takako had something like "feeling" from long ago. I disliked the word inspiration so I thought it was different on my own.

The sign was clearly not human. Takako came in front of the door of Rintaro 's room and breathed his breath and watched the inside. There is an indication of unequivocal signs. Wickedness is mixed in signs.

Takako breathed deeply and imagined the sky in his heart. It is blue and intelligent sky. It is like a usual ceremony when you bounce back evil.
I've got over this all the time.




Aoi spoke to Rintaro.
"Rin, I came to see you."

Rintaro heard the voice in his dream. It is a voice of Aoi. I could meet again.

Rintaro thought that the aoce would be swallowed by his dream between reality and paradise. I felt that the memory from a slowly flowing protected dream seemed to swallow the ao on and come around there.
It was memory that I do not want to forget.

"I came to see Lin"
I heard a real sound. Rintaro vaguely opened his eyes and looked over the room.

There was something at the foot of the bed.

It was blue.
"Aoi" said Rintaro.
Aoi smiled a bit to Rintaro. Rintaro also saw it and loosened her cheek a little.

Rintaro will never forget about the aoi. I thought so.


There is a sign of humanity. It's just across the door. It seems to be an official. Aoi concentrates consciousness on the door.

Takako suddenly felt chilly. The zong and the back were rough. I am concerned about Rintaro in it.
I never opened the door.

Rinutaro was sleeping in bed. The window was open and the curtain was shaking. There was a sign that there was something.
Evil one. Things that are not human. The signs shook the curtains even slightly, and gradually disappeared into the darkness of the night.

Takako was alarmed for a while but gradually relaxed the tension.
Found a long sigh. Temporarily the disaster went away.
Does this boy have the power to attract something like that? Takako peeped into the sleeping face of the boy softly.

The boy was breathing small with a feeling of relief as if something was being protected.

流星のうた 第20話 Song of the meteor 20



第20話


朝の光は少し開けた窓からカーテンを揺らせながら入ってきた。カーテンの動きに合わせて、差し込む光もゆらゆらと揺れた。
夢と現実の世界は、起きている時も眠っている時も凛太朗の楽園を揺さぶっていた。
食事を運んでくる職員や点滴を打ちに来る職員が凛太朗のその楽園に食料や薬を持ち込んできた。
何も食べたくなかったし、注射なんてされたくなかった。風や鳥や花があればそれでよかった。悪夢から守ってくれる存在があればそれで十分だった。
美しいものに囲まれて、守ってくれる人の気配があればもう何もいらないと思っていた。

凛太朗は破れた膜の隙間から、青い夢に置いてきた記憶が流れ込むのを傍観していた。
貴子に守られたその記憶は、水の流れのように楽園に流れ込み、流れの先で渦を巻きやがて「たまり」を作って「記憶の池」をつくっていった。
凛太朗はそんな風景をただ傍観していた。その池は美しいものに思えた。
流れは絶え間なくそそぎ込み、そしてそれがどこかで「たまり」をつくろうと、それは自然のなり行きのように感じた。



昨日も凛太朗は黒砂糖を一欠片食べただけだった。食事は毎回、そのほとんどが手をつけられていなかった。
貴子は医師免許をまだ生かしていて、施設にも子供達専用の医務室があった。小児科医も数人交代で勤務していた。
拒食がずっと続いていることが何より心配だった。医療用の点滴も最近は全て拒絶される。貴子が手渡しで与えたビスケットや黒砂糖を凛太朗はわずかに食べるだけだった。
飲み物にも気を使っているが、わずかに口にするだけで水を飲むことが多かった。身体は来た時よりもどんどん痩せていった。

まだこの少年には自分を受け入れてもらった、というだけだった。楽園を出たわけではないし、据え直したわけでもない。自分で世界を据え直すしか楽園を出る方法はない。

貴子は自分の「保護」の按配を模索していた。自分はどこにも行ってしまわない。そのことを少年に伝えることはできたかもしれない。しかしその事が楽園に安住させかねない。
貴子は少年の食事や検診を別の職員に担当してもらったりして、少し距離を置いて様子を見ることにした。

この施設ではある程度の医療行為ならできる。拒食にも、なんとかもうしばらく対応できそうだ。しかし凛太朗の向かっていこうとしている先は、楽園と共に眠ることだった。貴子にはそれを感じ取ることができるのだ。そのことは貴子の胸を締め付けた。

心療内科の医師と相談して食欲が出るような薬を処方してもらったが、凛太朗には拒絶された。副作用もあるので無理に飲ませることもしなかった。
命を繋ぎとめるにはどうすればいいんだろう。貴子は必死に模索していた。必ずどこかに答えはあるはずだ。

自分には家族に囲まれて育った経験がないので、スタッフや当直の医師たちの意見も聞いて回ったり、何度かミーティングもしたりして子供達にもそのことを伝えた。
施設全員で凛太朗の状況をシェアするようになった。凛太朗を悪く言う子供はいなかった。皆、凛太朗の気持ちがわかるのだ。
子供達の中には親身に心配してくれる子供もいた。ちひろちゃんもその中の一人だった。

ちひろちゃんは十歳の女の子で凛太朗が来てから、何かと心配をしてくれていた子だった。
食堂に来なかったり、部屋から出てこないことをいつも心配してくれていた。
貴子はそんなちひろちゃんに随分助けられている。一緒に心配してくれる小さな同志は、花を摘んだり花瓶の水を変えてくれたり「早く元気になるといいね」と言いながらその優しい気持ちを凛太朗に向けてくれている。

友人を思うそんな気持ちを、貴子は本当に嬉しく思う。本当の財産とはそういうものだと思う。施設の子供達は自分が傷ついた分、他人の傷にも寄り添うことができるのだろう。痛みがわかるということがどれだけ大切なことなのか、貴子は実感していた。
この小さな同志は、自分の心にも寄り添ってくれている。貴子はそう感じていた。
小さな同志がいるだけで、勇気や知恵を一人の時以上に出せるのだ。
ミーティングにはちひろちゃんや他の子供達も時々加わった。施設全員が凛太朗に心を寄せるようになっていった。

「話するのがちょっと無理なら手紙を書いたらどうかな」と言い出したのもちひろちゃんだった。乳児を除いて子供達全員が手紙や絵を描いてくれた。スタッフや医師も手紙を書いた。多分読まれないだろうというのは皆がどこかで感じていたことだが、皆の何かをしてあげたいという思いは誰にも止められなかった。

集まった手紙の束を貴子は凛太朗のベッドの枕元に置いた。傍らにはちひろちゃんも一緒にいた。
ちひろちゃんは手を伸ばして凛太朗に握手を求めた。

凛太朗は少しぼんやりとそれを眺めてから弱々しく手を握り返した。
「みんなで手紙を書いたよ、読んでね」ちひろちゃんはそう言って握り返してきた手をぎゅっと握った。
「私もお母さんを亡くしたんだよ、ここにはそういう子たちがみんな一緒に暮らしてるんだよ。凛太朗くんだけじゃないんだよ」
ちひろちゃんはそう言いながら両手で凛太朗の手をぎゅっと握った。

凛太朗はあまり表情を変えずに少し頷いた。
握られた手がぎゅっと握り返してくる感覚を感じた。暖かな親密なものだった。
そんな握手をしたことはなかった。
少女が何を言っているのかもわかった。
言葉には意味があった。
「一人じゃない、みんないる」 少女はそう言って自分の差し出した手を握り返していた。

凛太朗はなぜかわからないが自分がボロボロと涙を流していることに気づいた。 
悲しいわけでも嬉しいわけでもない。 
なのになぜか涙だけがボロボロと溢れてくるのだ。 目をつぶっても涙は溢れた。 凛太朗はもう一度小さく頷いた。

貴子は凛太朗の肩を抱いた。そしてちひろちゃんの肩に手をかけた。ちひろちゃんも少しもらい泣きしているようだった。表情を変えずに泣いている少年とそれを励ましている少女を貴子はそっと抱いた。

施設の子供達は世間に出れば辛い目に会うこともある。学校でも社会でも。今の世の中は「いじめ」が社会全体にはびこっている。そんな中で、偏見にさらされて、彼らの心は生きていく上でどれだけ傷つくかわからない。でも痛みを知った上でそれを許せる心は、何よりも強いものだと思う。世間の評価や噂などで、その人間の本質を知ることはできない。
施設の子供たちには特に、世間に出て何を言われようがブレない心を強く持っていて欲しいと思っていた。

貴子はちひろちゃんを先に部屋から出して、凛太朗が落ち着くまで肩を抱いていた。
凛太朗は目をつぶったまましばらく涙だけを流していた。肩を震わせるわけでもない。表情が険しくなるわけでもない。
ただ目をつぶったまま大量の涙を流した。
それがどういう涙なのか、嬉しいとか悲しいとか、言ってくれたらそれが救いになる。
凛太朗はただ、無言で泣いているだけだった。


少女が握った手が離れ「またね」と言って出て行くのがわかった。膜は、もうその機能を失っていた。夢の世界と現実の世界に境界線はなくなっていた。少女の握ってくれた手には、流れ込んでくる悪夢を一緒に取り払ってくれるような力強さがあった。
「一人じゃない、みんないる」そのメッセージは凛太朗にベッドから起き上がるように言っていた。靴を履きドアを開けて部屋から出て来るように言っていた。
あっちで待ってると言っていた。
その声は、何度も凛太朗の中で木霊した。涙がいくらでも溢れた。

楽園に流れ込んだ記憶の水は、渦を巻いて「たまり」をつくる。その「たまり」は池になり楽園の風景になる。
池を覗き込むと、そこには雲が浮かんでいる。水面にぽっかりと白い雲が浮かんでいる。時折吹く風にゆらゆらと揺れる。木々も水面に映っている。春の新緑をたたえた枝が水面に揺れている。新緑の新しい芽は柔らかな緑に輝いてその命を開こうとしている。
枝にはそんな新しい輝きが無数にあった。
「凛太朗くんだけじゃないからね」と少女は言った。水の中で命が開いていった。




Episode 20


The morning light came in while shaking the curtain from a slightly opened window. In accordance with the movement of the curtain, the light to be shook swayed.
The world of dreams and reality was rocking Rin'ita's paradise both when awake and sleeping.
The staff carrying the meal and the staff coming to the drip infusion bring in food and medicine to that paradise of Rintaro.
I did not want to eat anything, I did not want to be injected. It would be fine if there were winds, birds and flowers. It was enough if there was a presence to protect from a nightmare.
I was surrounded by beautiful things, I thought that if there was a sign of a guardian, nothing was needed anymore.

Rintaro stared at the memory of the blue dream flowing from the gap of the torn membrane.
That memory that was protected by Takako, like the flow of water, flowed into paradise, swirling around at the end of the stream, and eventually making "something" and making a "memory pond".
Rintaro was just staring at such a scenery. The pond seemed beautiful.
The stream pushed in constantly, and it felt as nature went as it somewhere "makes a stop".



Rintaro just ate one piece of brown sugar yesterday. Every meal, most of it was not hand-picked.
Takako still made the best use of his doctor's license, and the facility also had a dedicated medical office for children. A pediatrician also worked for several people.
I was anxiously afraid that refusal continued all the time. Recently all medical drops are rejected. Rintaro only eat slightly the biscuits and brown sugar that Takako gave by hand.
Although I am careful about drinks, I often drink water only by slightly speaking. The body gradually became thinner than when he came.

It was only to say that this boy had accepted himself. I did not leave paradise and I did not change it. There is no way to leave the paradise except to reinstall the world by yourself.

Takako was searching for the distribution of his "protection". I will not go anywhere. I may have been able to tell that to the boy. But that could cause the house to settle in paradise.
Takako decided to take a boys' meal and checkup by another staff member and decided to see the situation a little distance.

This facility can do some medical practice. It seems that I can somehow deal with it for some time. But Rintaro 's going to be heading was to sleep with paradise. Takako can feel it. That tightened Takako's chest.

I consulted with a doctor in psychosomatic medicine, prescribed medicine that appetite appeared, but Rintaro rejected it. I also did not force you to drink because there are side effects.
I wonder what I should do to keep my life connected. Takako was searching desperately. There must be an answer somewhere.

I have no experience of growing up surrounded by my family, so I listened to the opinions of the staff and doctors on duty, and told the children that I had several meetings.
All of the facilities began to share the situation of Rintaro. There was no child to say Rintaro badly. Everyone understands Rintaro's feelings.
Some of the children were worried parentally. Chihiro was one of them.

Chihiro was a child who was worried about something since Rin Taro came when she was a teen - year old girl.
I always worried about not coming to the cafeteria or coming out of the room.
Takako is helped much by such Chihiro. Small comrades who worry about me together are pushing the gentle feelings to Rintaro while picking flowers, changing the water of the vase or saying "I hope to get well soon".

Takako is truly delighted with such feelings of thinking of a friend. I think it is such real wealth. The children of the facility will be able to get close to other people's injuries as much as they are hurt. Takako realized how important it is to know the pain.
This little comrade keeps close to my heart. Takako was feeling that way.
Just with a small comrade, you can put out courage and wisdom more than a single time.
Chihiro and other children sometimes joined the meeting. All of the facilities began to focus on Rintaro.

Chihiro was also the one who said, "If you write a letter if you can not talk a bit, what is wrong?" Except for infants, all the children drew letters and pictures. Staff and doctors also wrote a letter. Perhaps it would not be read that everyone was feeling somewhere, but no one could stop stopping the thought that everyone would do something.

Takako placed a bunch of collected letters at the bedside pillow of Rintaro. Besides, Chihiro was with me.
Chihiro stretched out his hand and asked Rintaro for a handshake.

Rintaro looked at it a little idly and grabbed his hand with a weak hand.
"Everyone wrote a letter, read it," Chihiro tightly grasped his hand holding it back.
"I also lost my mother, and these children all live together here, not just Rintaro-kun."
Chihiro talked about that and grasped hands of Rintaro with both hands.

Rintaro nodded a little bit without changing his facial expression.
I felt the feeling that the held hand grasps tightly. It was warm and intimate.
I never shook hands like that.
I also understood what the girl is saying.
Words had meaning.
"Not alone, everyone," the girl said so and was holding hands held out by himself.

Rintaro did not know why but he realized that he was running down tears.
It is not sad or happy.
But for some reason tears are overflowing. Even if I close my eyes my tears have overflowed. Rintaro nodded small again.

Takako embraced the shoulder of Rintaro. And I put my hand on Chihiro 's shoulder. Chihiro seemed to be crying a bit. Takako gently held a boy crying without changing his expression and a girl encouraging it.

Children of the facility may see painful eyes if they go out to the world. Even at school and in society. In today's world "bullying" is infecting society as a whole. Under such circumstances, being exposed to prejudice, their minds do not know how much they will hurt as they live. I think that the heart that can forgive it after knowing the pain is stronger than anything else.

Takako put Chihiro out of the room first and hugged her shoulders until Rintaro settled down.
Rintaro was shedding tears for a while while closing his eyes. I do not shiver my shoulders. It does not mean that the facial expressions become steep.
Just a blank eye shed a lot of tears.
If you tell me what kind of tear it is, happy or sad, that will save you.
Rintaro just cried silently.


The hand held by the girl departed, "I see you again" I found out to go out. The membrane has already lost its function. The boundary line has disappeared in the world of dreams and the real world. In the hand that the little girl grasped, there was the strength that removes the flowing nightmare together.
"Not alone, everyone" The message said Rintaro to get up from the bed. He told me to wear shoes and open the door to come out of the room.
He said that he was waiting there.
The voice spirited in Rintaro many times. Every tear flowed over.

The water of the memory which flowed into paradise, "swirling" is made by rolling a whirlpool. That "reservation" becomes a pond and becomes a scenery of paradise.
Looking into the pond, clouds are floating there. A white and white cloud is floating on the surface of the water. Occasionally the wind blowing flickers. Trees are also reflected on the surface of the water. The branch that praised the fresh green of spring is shaking on the surface of the water. The fresh green bud will shine softly and open its life.
There were countless such new shines in branches.
"It's not just Rintaro-kun," the little girl said. A life opened in the water.

流星のうた 第19話 Song of the meteor 19



第19話


タナベは会社の社長に電話をして店の軽トラックを借りてきた。少人数の小さな中古車店なので店の軽トラックは従業員も荷物を運ぶときなんかに時々借りて使っていた。車は明日の出勤の時に乗ってくればいい、と社長は言ってくれた。

タナベと美和は再度山の登り口から山へ上がった。山へ上る道は急なカーブがいくつも続き、山肌が道に迫っていた。
軽トラックのギアをセカンドに入れ、タナベは慎重にハンドルを握った。日が暮れてしまうまでにはまだ時間があるが、山が深くなるにつれて時間が早送りされているような感覚になった。

あたりは薄暗く鬱蒼とした新緑の森に包まれた。ヘッドライトを点け、窓を開けると新鮮な風が入ってきた。街の中と空気が違う。

「外国人墓地から尾根筋までの間の赤松林の辺り」と美和は言った。
タナベはさすがに夜中に一人で来るところではないと思った。「何でそんなとこで待ち合わせるの?」
「人目につかないってのが第一よね」と美和がいった。「それに葵がその場所を指定してきたの」

タナベは葵が六甲山に詳しい理由が思いつかなかった。というか葵について特に何も思いつかなかった。葵とはスタジオやライブで会うくらいでほとんどこれといった話もした事がない。必要な事は喋るが、葵はなぜか笑顔を見せた事がなかった。
街ですれ違っても自分は葵に気づかないかもしれないとふと思った。何なんだろう、葵って。

タナベは外国人墓地を通り過ぎ、谷筋の赤松林の側で車を止めた。ヘッドライトを消すと辺りは真っ暗になった。
「こっち」美和は懐中電灯をつけてタナベを呼んだ。林の中に登山道があった。タナベも手に持った懐中電灯をつけて美和の後に続いた。
美和は慣れた様子で登山道を歩いた。
無言のまま二人はひとしきり歩き、やがて笹が生い茂る場所に出た。背丈ほどもある笹が登山道の脇まで迫っている。
美和は山道から外れ笹の中に分け入っていった。時折ある岩を伝い笹の薄い部分を選んで歩いた。
タナベは見失わないように懐中電灯で美和の背中を追いかけながら後に続いた。 登山道から笹の中を少し歩くとわずかに開けた場所に出た。丸い湿った土の地面が笹の侵入を阻止していた。そしてその先にはやはり丸い形で池があった。池は岩場と笹に縁取られて、それを囲むように赤松林が立ち並んでいた。

美和は池に着くとゆっくりと辺りを見回した。夜の森だ。

木々は夜に向かってその性質を変化させているようにも見えた。地上の部分の活発な活動から、地下の領域にその活動範囲を移行しようとしているみたいに。

美和が登山部に入ったのもそんな山の表情に魅せられたからだ。キャンプしながら山歩きをしていると昼間とは違った山の表情が見えてくる。太陽のもとで見る森と太陽がない森。同じ風景のはずなのにその世界はまるで別の世界だ。

昼間の森にはある種の明確さがあった。
木々はその雄々しさを湛え、谷や尾根はその姿を露わにした。見えるものそれぞれにその意味があり役割があるように感じる。
日が暮れた森は尾根も谷もなくなり木々も草もそれぞれが曖昧なひとつながりとなって世界を共有しているように感じる。暗闇の中で役割や意味も曖昧になり気配や音に支配される。

わずかな星とぼんやりとした空以外は漆黒の闇の中にのみ込まれる。
目の世界から感覚と音の世界へと移行させられる。

「ここなのか?」タナベは美和の後ろから声をかけた。
「うん、目印があると思うから探してくれる?」どこかにいつも葵が着ていたジャケットがあるはずだ。葵は目印にジャケットを置いておくと言っていた。
「あれじゃない?」タナベが向かいの赤松の枝に黒いジャケットが結んであるのを見つけた。
二人は懐中電灯で赤松の枝を照らした。葵に初めて会った時に売り場を尋ねられたあの黒の革ジャン。葵はそれをいつも着ていた。
「あれだね」と美和はいった。
「葵は寒くないんだろうか」タナベはなんとなく聞いた。
「たぶん葵は超人的な体力を持ってるんだと思う。獣になろうとしているんだもん、服なんてどんどん必要じゃなくなるんだよ」美和は自分に言い聞かせるようにそういった。
タナベはそれについて考えてみたが、うまく考えがまとまらないのでそれ以上は考えないことにした。
「とにかく、ここで間違いないんだな」とタナベは念を押した。美和はこくりとうなづいて「間違いない」と言った。

池は昼間見た時よりもはるかに底が深そうに見えた。水は空を映して黒く透き通っていた。水生植物が池の淵に生えていたが、池にはそれ以外のものは何も浮かんでいなかった。ただ黒く透き通った水をたたえているだけだった。
少し大きめの谷筋と幾つかの小さな沢筋からの流れが池に注がれている。そしてその流れは池を対流して右側の谷筋の方向に向かってゆっくりと下っていってるようだった。
水の流れる音がわずかに聞こえる。

二人は黙ったまましばらくその池の表情に見入っていた。
どこかで鳥が鋭くないた。警戒音のように一度だけないて再び静寂があたりを包んだ。


タナベは池を見ながら、なぜか母親のことを考えた。
池にたたえられた水は絶え間なく流れ込む水があっても溢れることなはない。静かに変わらない豊かさを保っている。

そんな池を見ながら働くだけ働いて人生を終えようとしている母親のことを思った。
なぜ今そんなことを考えるのだろうか。幸福かどうかが何で決まるのか、タナベは池を見ながら考えていた。
母親は多分幸せだった。自分も母親を愛していたし、母親もそれ以上の愛情を向けてくれた。それ以上の幸せはないと思う。そしてそんなことは多分時間の問題じゃないはずだ。

タナベは母親の死を受け入れてから、そのことを随分考えたのだ。自分が楽をさせてあげられなかった事。親孝行と呼べる事が出来なかった事。本当に母親は幸せだったんだろうか。
そんな思いも母親の言葉に助けられて前を向けた。
「人生は何を得たかではなくて何を与えたかなのよ」
小さい頃から母親はそんな事をよく言って聞かせてくれた。
母親の人生はきっと幸せだった。






「一週間後、もう一度ここに来て葵にバッテリーを渡すの、それくらいしかできないけど」美和はまた自分に言い聞かせるようにそう言った。
タナベは乗りかかった船のような気分でその状況を受け入れるしかなかった。何がどうなっているのかわからないが、とりあえず来週ここに来てみれば状況がのみこめるかもしれない。

「わかった、来週もう一度あの軽トラックを借りてここに来てみよう、とりあえずはそうするしかなさそうだな」とタナベはいった。


二人は池を後にして登山道まで戻り再び少し歩いてから止めてある軽トラックのところまで戻った。軽トラックは暗闇の中で打ち捨てられた鉄の塊のように二人を待っていた。山の中でその存在はいびつな存在のように感じられた。


エンジンをかけると軽トラックは息を吹き返したかのように生き返った。
「さて、待ち合わせは夜中だ。夜中は再度山からは車で上がれない、交通規制がかかっている、有馬街道から上がるしかない」とタナベは言った。
「時間にしてどれくらい?」
「3〜40分余計にかかると思う」とタナベは言った。
「そのルートも走っておこう」と美和が言ったので、タナベは尾根筋に出て有馬街道へのルートを走った。元町辺りまでの時間はこれでだいたいわかる。夜中ならもう少し早いはずだ。
尾根筋に出ると有馬街道まではすぐに出られた。森を抜けてすぐに神戸市北区の街が山の中に広がっていた。街道は街を抜けてトンネルをくぐり川沿いを下って兵庫区に出た。
そこはもう六甲山から見下ろせた街の中だった。
漆黒の闇の森からまだ騒がしい神戸の街に降りてくると二人はなぜか同じことを思っている気がした。
「なんなんだろうね」と美和が言った。
「なんなんだろうな」とタナベがそれに答えた。

月が海の上に浮かんでいた。

美和は久しぶりに月を見たような気がした。普段、月のことなんて考えもしないが今は少し違った。

世界が美和の中で少しづつ変わり始めていた。




Episode 19


Tanabe called the president of the company and borrowed a light truck truck. Because it is a small secondhand car shop with a small number of people, the light truck of the store was borrowed occasionally when employees also carry luggage. The president said that the car should ride at the time of tomorrow's work.

Tanabe and Miwa rose again from the climb up to the mountain. On the road to the mountain there were many steep curves, the mountains were approaching the way.
I put the gear of the light truck into the second, and Tanabe grasped the handle carefully. There is still time before the sun goes down, but as the mountain got deeper it felt like time was being fast forwarded.

I was surrounded by a fresh green forest that was dusky and dense. I turned on the headlight and opened the window and a fresh wind came in. The air in the city is different from the air.

Miwa said, "Around the red pine forest from the foreign cemetery to the ridge line."
I thought that Tanabe is not about to come alone alone in the middle of the night. "Why are you going to meet in such a place?"
Miwa said "I am totally out of control". "Aoi has also specified that place"

Tanabe had no idea why Aoi is famous for Rokko. I mean, I could not think of anything particularly about Aoi. I have never talked about this as much as I meet with Aoi at the studio or live. I talk about necessary things, but Aoi never showed a smile for some reason.
Even though I passed in the city, I thought that I might not notice Aoi. What is it, Aoi?

Tanabe passed the foreign cemetery and stopped the car on the side of the valley forest of the Akamatsu forest. When I turned off the headlight the neighborhood turned black.
"Here" Miwa wears a flashlight and called Tanabe. There was a mountain trail in the forest. Tanabe also wore a hand flashlight and followed Miwa.
Miwa walked on the mountain path with a familiar appearance.
While silent, they walked a lot and eventually went to places where bamboo grown. Bamboo that is as tall as you are approaching the side of the mountain trail.
Miwa separated from the mountain path and divided into bamboo grass. Sometimes I walked through a rock and chose the thin part of the bamboo and walked.
Tanabe continued to follow the back of Miwa with a flashlight so as not to lose sight of it. When I walked a bit inside the bamboo street from the mountain path I went out to a slightly opened place. The ground of the round damp ground prevented the bamboo penetration. And ahead there was a pond in a round shape. The pond was fringed by rocky places and bamboo trees, and red pine forests were lining around it.

Miwa slowly looked around as I arrived at the pond. It is a night forest.

It seemed that the trees were changing their nature towards the night. It seems that from the active activity of the ground part, it is trying to shift its activity range to the underground region.

It is because Miwa entered the mountaineering section was also fascinated by the expression of such a mountain. When camping and doing mountain walking you will see a different mountain expression from daytime. Forest and the forest with no sun seen under the sun. The world is an entirely different world though it should be the same landscape.

There was some kind of clarity in the daytime forest.
The trees were filled with their stinginess, and valleys and ridges revealed their appearance. It seems that each of the visible things has its meaning and there is a role. In the forest where the sunset has passed, the ridges and vallees are gone, and both trees and grass become ambiguous one and feel like they are sharing the world. Roles and meanings become ambiguous in the darkness and are dominated by signs and sounds. Except for a few stars and a blank sky, it is only in the darkness of jet black.
It is transferred from the world of the eye to the world of feeling and sound.

"Is it here?" Tanabe called out behind Miwa.
"Well, since you think there are landmarks, will you look for it?" There should be jackets that Aoi had always worn anywhere. Aoi said that it would keep a jacket on the mark.
"Is not that?" I found a black jacket tied to the branch of red pine opposite Tanabe.
The two lighted a branch of the red pine with a flashlight. That black leather jacket asked for the store when I first met Aoi. Aoi was always wearing it.
"That's it," Miwa said.
"Aoi is not cold," Tanabe asked somehow.
"Perhaps I think that Aoi has superhuman strength, I'm trying to be a beast, I do not need clothes more and more." Miwa said that to himself.
Tanabe thought about that, but I decided not to think about it anymore because my idea did not fit well.
"Anyway, there is no mistake here," Tanabe prudently touched. Miwa nodded and said, "No doubt."

The pond looked much deeper than when I saw it in the daytime. The water reflected in the sky and was transparent in black. Aquatic plants grew on the edge of the pond, but nothing other than that was floating in the pond. It was only praising clear and transparent water.
The flow from a slightly larger valley muscle and several small slope muscles is poured into the pond. And the flow seemed convecting the pond and slowly descending towards the valley line on the right side.
Sounds of water flowing slightly.

They kept silent for a while for their expression on the pond.
Somewhere the birds were not sharp. Like a caution sound, only once did silence wrap around.


While watching the pond, Tanabe thought of his mother somehow.
The water paid in the pond is not overflowing even if there is constantly flowing water. It keeps richness which does not change quietly.

I thought of my mother trying to finish my life working as long as I work while looking at such a pond.
Why are you thinking about such a thing now? Tanabe was thinking while watching the pond what happiness or not was decided.
My mother was probably happy. I also loved my mother, and my mother also gave me more love. I do not think there is any more happiness. And that is probably not a matter of time.

Tanabe thought about it much since accepting her mother's death. That I could not make it easy. Things that I could not call my filial piety. I wonder if my mother was truly happy.
Such a thought was aided by the mother 's words and turned ahead.
"Life is what I got, not what I got"
My mother often told me such a thing from a young age.
My mother 's life was certainly happy.






"A week later, I come here again and hand the battery to Aoi, I can only do that." Miwa said so that I could tell myself again.
Tanabe had no choice but to accept the situation in a mood like a leaning ship. I do not know what is going on, but if you visit here next week you may be able to find the situation.

"Okay, let's borrow that light truck again next week, let's come here, for the time being it's likely to do so," Tanabe said.


They left the pond and went back to the climbing path and walked again a little and returned to the light truck stopped. The light truck was waiting for them like a mass of iron that was abandoned in the dark. The presence was felt like an irregular presence in the mountains.


The light truck revived as if I breathed back when I started the engine.
"Well, the meeting is in the middle of the night, we can not get up from the mountain again by car, traffic restrictions are on, we only have to rise from Arima Highway," Tanabe said.
"How long have you been in time?"
"I think it will take 3 to 40 minutes more," Tanabe said.
Miwa said, "Let's run that route as well," Tanabe went out to the ridge line and ran a route to the Arima Highway. By this we can almost understand the time to Motomachi. It should be a while early in the evening.
I got out to the Arima Highway immediately after entering the ridge line. As soon as I passed through the forest, the city of Kita Ward, Kobe City, was spreading in the mountains. The highway passed through the tunnel and went down the river to Hyogo ward.
It was already in the city that I could look down from Rokko.
When I came down to the city of Kobe that was still noisy from the black dark forest, they felt like I thought the same thing for some reason.
"What is it," Miwa said.
"What is it," Tanabe answered.

A moon floating on the sea.

Miwa felt like I saw the moon after a long time. I normally do not think about the moon, but now it's a bit different.

The world began to gradually change in Miwa.

流星のうた 第18話 Song of the meteor 18



第18話


足の裏には薄っすらと硬い毛が生え揃ってきていた。足の裏の感覚は皮膚が分厚くなった分、鈍くなっているようだった。痛みや刺激の感覚は薄れたが、シキの振動は感じやすくなっていた。
シキはいつも振動している。自分の振動とシキの振動が重なるとき、シキの声が聞こえそうな気がする。言葉足らずのシキの声が。

葵は足の裏から伝わってくるシキの振動を感じながら、クンネが言っていた言葉を思い出す。

「シキがまた弱ってきているみたいなんだ」

葵はクンネのその言葉をゆっくりと噛みしめていた。
シキを弱らせているのは自分の波動だった。シキの振動は緩やかにそれを伝えていた。

声を失ったシキはこの星の生き物と共に生きている。あたしのその歪んだ波動がシキを弱らせる原因だ。鬼の波動は災いそのものだ。

獣を受け入れて、少しずつ気づいていく。おりょうのような、佐吉のような、茶碗にも神様が宿ると生きている、その波動がシキを癒すんだ。

葵は足の裏に伝わるシキの振動を感じながら、美和やタナベのことを思った。
「ありがとう」小さく、いつかのようにまた言ってみる。人間がいつも使う言葉。

葵は美和とシェアしていた生活のことを思い出していた。日常のささやかな会話の中に美和はたくさんの「ありがとう」を含ませていた。感情の中に、思いの中に。思い出せば思い出すほど美和はそういう話し方をしていた。

人間の中にシキを癒せる波動がある。
遠くから街の喧騒が聞こえてくる。はるか眼下で神戸の街並みが光っている。

葵は、自分の中の鬼の波動がまだまだ消えていないことを感じる。その領域は、獣への変化と共に入れ替わって行くのだろうか。

シキを癒せるような波動を、早くシキに送りたい。
葵は心を決めると、迷いがなくなったようにそう思い始めている自分に気づく。


獣という生き物になる。人間でも鬼でもないもの。

足の裏にシキの振動が伝わってくる。


雨が降り始めた。気がつくと分厚い雨雲が空を覆っていた。黒い雲は幾重にも重なり、山々と眼下の街に垂れ込めていた。




「さっきトカに話したよ。トカは遠いからすぐにはわからないからね、トカは君たちの事が心配なんだよ」とクンネが言った。月は分厚い雲の間から顔をのぞかせて、丸く海の上に浮かんでいた。

「クンネ、あたしは母さんが言ったことも思い出した。きっと思い出すってあの時決めたんだ」と葵は海に浮かぶクンネにいった。

「そうだね、でもいくら君が記憶を思い出したんだとしても、君が鬼の魂を宿しているうちは何もできないんだよ。獣の姿になってその魂を磨くんだ。ちゃんと輝き始めるまで磨くんだよ。魂は輝くためにあるんだ。自分でしか魂は磨けないんだ。きっと君ならそれができるよ」クンネは言い終わってから咳払いを一つした。

「姿の変化と入れ替わりに鬼の魂も抜けていくの?」と葵は聞いた。

「魂から鬼が抜けた分、姿が変化するんだよ」とクンネは言った。「磨くんだよ」
クンネはそう言って雲の中に消えていった。

クンネはシキの向こう側にいるトカの波動を感じながら思った、きっとアキが気づくことを信じている。
どんな命にもそれぞれの輝きがある。命の輝きには優劣もない。

命には光も闇もある。日の当たる部分と夜の領域が存在する。
クンネは自分の満ち欠けを通してアキに気づいて欲しいと思っている。
光と闇は共にある。 君だけじゃない。

シキの向こう側からトカが波動を巡らせる。
トカは家族を温め照らす。迷わないように。いつでも無償の愛を持ってその引力で家族を抱く。
トカはいつも言っている、私の子供たちだ。命は全てが輝いているのだ。 輝かない命などあって欲しくない。

トカは家族を抱きながら命を燃やして家族を温める。燃え尽きるまでトカはその命を燃やす。




雨が強くなってきた。赤松林に霧が立ち込める。地面から湧き上がった霧は、雨と混じって水の中へと森を誘う。水浸しになっていく森に脈が息づき始める。森の地形は龍となった水に削られてどんどんその姿を変えていく。ガラガラとあちこちで土が崩れる。木々が風になった龍にあおられ枝や葉を落とす。風と水がそれを運び山が再び蘇生していく。

「磨くんだよ」クンネの言葉がもう一度山に木霊する。
森は水の中で再び蘇生するようにその命を踊らせる。


葵は雨に打たれながら我に帰る。まだ人間の姿だ、雨に打たれると体力も消耗する。
リュックに入れてきた雨合羽を取り出した。どこか雨宿りできる場所を見つけたい。
人工施設がある山頂付近に移動することにして、雨合羽を着込んだ。

磨くって、何をどうすればいいんだ?
葵は祈りにも似た気持ちでその答えを探した。雨が雨合羽に音を立てて打ち付ける。
世界と自分とを隔てるそのビニールの膜は、不快な音を立てて思考を邪魔する。

地面を蹴って走り始める。尾根筋に出て最短距離で山頂まで走る。思考を停止させて地面を蹴る足に意識を向ける。谷を越えて斜面を駆け上がる。枝や岩がビニールの膜を裂く。
いとも簡単にビニールの膜は森にその機能を奪われていく。
途中、葵は敗れた雨合羽を脱いでアスファルト道路の脇に置いた。コンクリートの上で、そのビニールの破片は自然との調和を絶たれた存在となる。

何とも混ざり合うことのない存在だ。
今の自分や凛太朗のようだ。

凛太朗。 もう一度、獣の姿になる前に会っておきたい。彼にも何かを受け入れてほしいと葵は思った。
結界をまとった少年。空っぽのまま世界の端にいる。

なぜかふと、葵は凛太朗をそこから連れ出して獣の世界へと連れて行きたいと思った。それが凛太朗が望む世界ではないのだろうか。鬼の毒で現実と決別する。

葵は自分の中に流れる鬼の魂を感じる。
今のこの思いは鬼の魂から発せられた思いだ。
葵は自分の意識に区別がつき始めたことを感じる。鬼と獣が魂のレベルでせめぎ合っている。

凛太朗は人間だ。その魂は鬼とは違う。
同じ波動を感じるが、魂が違う。
凛太朗は人間なのだ。それは葵を安堵させる。

観光施設の駐車場の屋根の下で葵は雨に濡れた服を着替えた。夜中の観光施設は取り残された遺跡のような寂しさがあった。
レストランの方に行き、乾いたベンチを見つけた。周辺の椅子に濡れた服を干した。
ベンチに体を横たえ目を閉じる。冷ややかな風が時折吹き抜けた。

浅い眠りが葵を包んでいく。森の龍が身を震わせ風となって神戸の街へと駆け下る。
街は硬いコンクリートでその風を受け止める。風はビルの間を走りシキの海へとたどり着く。
海が発砲していく。ピンク色の気泡を海底から湧き上がらせる。泡のはじける音が聞こえる。海の底の地面の中を龍がゆっくりと移動していく。龍の動きに合わせて、ピンクの気泡はゆらゆらと立ち上る。気泡は水面ではじけ、空に昇っていく。そして対流に乗ってどこまでも巡っていく。

葵は落ちていく眠りの中でシキの振動する音を聞いていた。この音をサポに伝えたい。
この音は命の音だ。聞こえるかサポ。命の音を聞くんだ。
葵の意識は眠りの中に落ち、その思いは対流に連れ去られる。

水浸しになった森は、ぼんやりと輝いていた。暗闇の中で命は輝き始めた。




Episode 18


On the sole of the foot was thin and stiff hair growing. The feeling behind the foot seemed to be dull as the skin thickened. The sensation of pain and irritation was diminished, but the vibration of the shiki became easy to feel.
Siki is always vibrating. I feel that you can hear the voice of your shiver when your vibration and vibration of shiki overlap. The voice of a wonderful speechless word.

Aoi remembers the word Kunune said while feeling the vibration of the shiver transmitted from the sole of the foot.

"The shiki seems to be getting weaker again."

Aoi was chewing the word of Kunne slowly.
It was my own wave that weakened the shiki. The vibration of the shiki transmitted it moderately.

Shiki who lost his voice lives with this star's creature. That distorted wave is the cause of weak shiki. The waves of demons are disaster themselves.

Accepting beasts, I gradually become aware. God like living in a tea bowl like Sakichi lives when God lives, that wave will heal the shinkle.

Aoi thought of Miwa and Tanabe while feeling the vibration of the shiny transmitted to the soles of the feet.
"Thank you" Small, I will try again someday. Words that humans always use.

Aoi remembered the life she shared with Miwa. Miwa contained many "thanks" in everyday small conversation. In my emotions, in my mind. Miwa did such a way of talking as she remembered.

There is a wave that can heal the shiki among humans.
The bustle of the city can be heard from afar. The cityscape of Kobe is shining under the eyes.

Aoi finds that the waves of the demons inside of him are still not disappearing. Will the area change with changes to beasts?

I'd like to send a quick wave to Shiki that can heal the shiki.
As Aoi decides his mind, he notices myself that he is beginning to think so as hesitation has gone.


Become a creature called a beast. It is not human nor demon.

The vibration of the shinwa comes to the back of the foot.


It started to rain. A thick rain cloud covered the sky when I noticed it. The black clouds overlapped many times and were hanging down the mountains and the city under the eyes.




"I talked to Toka a little while ago because Toka is far away, Toka is worried about you," Kunne said. The moon floated over the thick clouds, floating on the ocean round.

"Kunne, I also remembered what my mother said, I decided at that time to remember," Aoi went to Kunune floating in the sea.

"Yes, but no matter how much you remembered my memory, I can not do anything while you are holding the soul of a demon, I will polish my soul in the form of a beast. The soul is to shine, the soul can only be polished by yourself, you can do it, surely you can do it. "Kunne made one throat after it had finished speaking.

Aoi asked, "Does the demon's soul drop out in exchange for changes in appearance?"

"The figure changes as the demon has passed from the soul," Kunne said. "Brush up"
Kunne said so and disappeared into the clouds.

Kunne believes that Aki will surely notice, while feeling the wave of the Toka on the other side of the shiki.
Every life has its own radiance. There is also no merit in the glow of life.

There is both light and darkness in life. There is a day and a night area.
I think Kunne wants him to notice Aki through his own absence.
Light and darkness are both. Not only you.

From the other side of the shiki Toka can make a wave.
Toka warms up the family. Do not get lost. Hold the family with its gravity with free love at any time.
My children. Life is shining everything. I do not want it to have a life not to shine.

Toka embraces his family and burns his life to warm his family. Tokka burns its life until it burns out.




The rain is getting stronger. Mist can be placed in the Akamatsu forest. The fog rising from the ground mixes with rain and invites the forest into the water. The pulse begins to breathe in the forest which becomes flooded. The topography of the forest is cut down by dragon water and changes its appearance rapidly. The earth collapses with rattles and here and there. The tree falls on the dragon which is blown and drops branches and leaves. Wind and water carry it and the mountain revives again.

"Brush up," Kunne's words spirit again in the mountains.
The forest dances its life to resuscitate again in the water.


Aoi will return to me as it is struck by the rain. It is still human figure, when we are struck by the rain we lose our physical strength.
I took out the rainbow that I put in my backpack. I want to find a place where I can rain shelter from here.
I decided to move near the top of the mountain where the artificial facility is located, and wore rain wings.

What can I do to polish?
Aoi looked for the answer with feelings similar to prayers. Rain strikes with rain at the rain.
That vinyl film separating the world and himself disturbs thought with an unpleasant sound.

Kick the ground and start running. Go out to the ridge line and run to the summit at the shortest distance. Stop thinking and turn consciousness on the foot kicking the ground. Go up the slope across the valley. Branches and rocks split the vinyl film.
Vinyl film is robbed of its function in the forest very easily.
On the way, Aoi took off the defeated raincoat and put it aside the asphalt road. On the concrete, the vinyl fragments will be harmonized with nature.

It does not mix anything.
It seems to be me or Rintaro now.

Rintaro. Again, I want to meet before the appearance of the beast. Aoi wanted him to accept something.
A boy in a barrier. I am empty at the edge of the world.

Suddenly, Aoi wanted to take Rintaro from there and take him to the beast's world. Is not it the world that Rintaro wants? Demon poison and break from reality.

Aoi feels the spirit of a demon flowing inside of himself.
This thought of now is a thought emitted from the soul of a demon.
Aoi feel that distinction began to distinguish one's consciousness. Demons and beasts intertwine at the level of the soul.

Rintaro is a human being. That soul is different from a demon.
I feel the same wave, but the soul is different.
Rintaro is a human being. It relieves Aoi.

Aoi changed clothes wet with rain under the roof of the parking lot of tourist facilities. Tourist facilities in the middle of the night had loneliness like ruins left behind.
I went to the restaurant and found a dry bench. I dried wet clothes in the surrounding chair.
Lay your body on the bench and close your eyes. A chilly wind sometimes blew through.

Shallow sleep wraps Aoi. The dragon of the forest trembles and runs to the city of Kobe as the wind.
The city is hard concrete and catches the wind. The wind runs between the buildings and reaches the ocean of the ship.
The sea is firing. Bring up pink bubbles from the bottom of the ocean. I hear the bubble bursting sound. A dragon moves slowly in the ground of the bottom of the ocean. Along with the movement of the dragon, the pink bubbles rise with fluctuations. Bubble bursts on the surface of the water and rises to the sky. Then we will go around the river by convection.

Aoi heard the sounds of shiki vibrating in the falling sleep. I want to tell this sound to the support.
This sound is the sound of life. Can you hear me? Listen to the sound of life.
Aoi 's consciousness falls asleep, and that thought is taken away by convection.

The flooded forest was shining brightly. Life began to shine in the dark.

流星のうた 第17話 Song of the meteor 17



第17話


「アキがさ、獣を受け入れたよ」とクンネはトカにいった。

「そうかい、一千年の迷いの末にあのいたずら坊主もやっと気づいたんだね」とトカはいった。

「人生は勉強っていうけど、何かを失わないと何かは得られないものなんだね」とクンネはいった。

「いつも、きっとそうね」トカはアキがその姿と引き換えに得るものの大きさを考えていた。

「たかが姿だ。アキはきっともっと大事なものに気づくよ」

トカはそのためならいくらでも光と熱を届けるつもりだ。みんな私の家族だ。誰一人として見放さない。

私はいつでも家族みんなに光と熱と色を届ける。


クンネはトカの波動がドンと揺れたのを感じた。もうじきでっかいオーロラが出そうだ。トカの波動はシキの波動に引き寄せられ光のカーテンをなびかせる。トカの波動が飛ばせた粒子が帯となって光輝く。


シキが振動する。 地響きがする。 低く聞き取れないほどの振動。

みんな心配してくれている。葵はシキの振動を感じてそう思った。いつもそうだった。ずっと今まで忘れていた。

葵は海の見える丘の上でクンネを見上げた。月は何も言わず白く輝いていた。






窓辺に置かれた花瓶の花が、月明かりに照らされて昼間とは違う色を放っている。月明かりに照らされた柔らかい色は、色というよりも輝きのように感じる。
それぞれの色の輝きが、淡い輪郭の中に浮かんでいる。

凛太朗は窓から差し込む月明かりに照らされた花を、見るともなく見ていた。貴子が置いていった花だ。
貴子。
新しい名前が楽園の世界に書き加えられた。その名前は気がつくとそこにあった。部屋に飾られた花の記憶のメッセージとして咲いていた。

凛太朗は花に添えられたそれらのメッセージを、花を見ながら何度も読み返していた。
もう自分は使わないだろうと、夢の中に置いてきたその言葉たちが、花のメッセージとして凛太朗に語りかけていた。月明かりがそのメッセージを輝かせる。

心の中の何かが壊れ始める。膜のような何か。やっと逃げ込んだ楽園に夢の世界が侵入してくる。息が苦しくなる。
何かがそっと凛太朗を包み込む。

貴子が抱きしめてくれた時の感覚がよみがえる。暖かい圧力が凛太朗を包む。
圧力は、窓辺から侵入してくる夢の世界の美しいものだけを選別している。悪夢を追い払い優しさだけを侵入させる。選別された夢の記憶は、少しずつ凛太郎に帰っていく。凛太朗は圧力に抱かれて少しずつ自分を取り戻していく。


貴子は凛太郎がその夢と現実の間で戦っていることを感じていた。何か必死に耐えているようでもあった。
貴子はあれ以来、度々そっと凛太朗を抱きしめた。不安げな時、凛太朗はじっと膝を抱えていた。貴子はそっと抱きしめ、不安が去るまでそうしていた。それは貴子にとって一緒に乗り越える事柄だった。
凛太朗はもう自分の家族だ。少年が逃げ込んだ楽園が、そこが現実の世界ではないと気づかせてあげたい。
必要なのは言葉よりも感触や温もりなのだと思う。それで十分思いは伝わるはずだ。

思い出すべき事柄は日常のささいな愛情なのだ。それさえ思い出せたら、少年がこれから歩んでいく現実にしっかりと足を踏みだせるだろう。
温もりを思い出して欲しい。そんなことも置いてきてしまったのだ。生きるために。

貴子は凛太朗に寄り添いながら、少年が自分の力でその領域を変革していくのをじっと待った。放置していれば少年は楽園に閉じこもったまま、その輝きを失うことになるかもしれない。しかし誰かが楽園から連れ出すことはできない。
自力で世界を捉え直すしかないのだ。日常のささいな愛情は、心の奥でその芽吹きの時が来るのを待っている。思い出すべき事柄はそのこと以外にはない。


静かに寝息をたてはじめた少年を、月の光が照らしている。
貴子はカーテンを引き、そっと部屋を出た。毎日が命と向き合う日々だ。それを選んだ自分に休息はない。
しかしそのことは貴子にとって本望でもあった。何もせずにはいられない。何がそうさせるのか、わからないままに貴子は毎日子供たちに接していた。

自分には子供もいないし伴侶もいない。
何か訳があるわけではないが、一人で生きていけるということが今まで結婚を遠ざけていたのかもしれないし、親がいないということをどこかで意識しているのかもしれない。そうしている間に四十も半ばを過ぎた。貴子は自分の人生を、それでよしとしていた。自然な流れなのだと思う。

そんな自分でも何かをせずにはいられない。ここは自分の家なのだ。自分ができることをやりたいだけだ。それでも足りないかもしれないと思う。 なぜかわからない。
子供達と接していると、いくらでも力が湧いてくるのだ。

泉がこんこんと湧き出るように、子供達に向き合うほどに、いくらでもその泉は湧き水をたたえていく。 貴子は、そのことをとても嬉しく思う。 そのことを空に感謝した。

空には丸い月が浮かんでいた。引力が世界に満ちていた。





Episode 17


"Aki, I accepted beasts," Kunne went to Toka.

"Well, after that one thousand years of hesitation, that mischievous budda finally noticed," Toka said.

"Life is studying, but if you do not lose something you can not get something," Kunne said.

"Always, surely" Toka thought about the size of what Aki gets in exchange for that figure.

"It is in the form of a figure, Aki is surely aware of more important things."

Toka intends to deliver light and heat anyway for that. Everyone is my family. I will not let go of anyone.

I always give light, heat and color to my family.


Kunne felt the wave of the Toka swayed with Don. It is almost time for awesome aurora to come. The wave of the Toka is pulled by the waves of the shiki and it frowns the light curtain. The particle that the wave of the Toka flew is a band and it shines.


The shiver vibrates. I will make a sound. Vibration that can not be heard low.

Everyone is worried. Aoi felt the vibration of the shinkle and thought so. It always was. I have forgotten until now.

Aoi looked up at Kunune on the hill where the sea could be seen. The moon shone white without saying anything.






The flower vase set on the window side illuminates the moonlight, and it has a different color from the daytime. The moonlight's soft color feels like shine rather than color.
The glow of each color is floating in the faint outline.

Rintaro saw the flowers illuminated by the moonlight that was plugged in through the window, without looking. Takako put it in the flower.
Takako
A new name was added to the world of paradise. I found out the name as I noticed it. It was blooming as a message of the memory of the flowers decorated in the room.

Rintaro read these messages attached to the flower over and over while watching the flowers.
I would not use myself anymore, and the words that I put in my dreams spoke to Rin Taro as a message of flowers. The moonlight shines that message.

Something in my mind begins to break. Something like a membrane. A world of dreams invades into the paradise where she finally ran away. My breath gets painful.
Something gently wraps Rintaro.

The feeling when Takako hugged me rises. Warm pressure wraps Rintaro.
Pressure is sorting out only beautiful things in the dream world invading from the window side. Remove the nightmare and let only the kindness invade. Memory of the sorted dream, I will return to Rintaro little by little. Rintaro is getting pressure to regain herself little by little.


Takako felt that Rintaro was fighting between that dream and reality. It seemed like I endured something desperately.
Since that time, Takako occasionally embraced Rintaro softly. When uneasy, Rintaro held his knees gently. Takako gently hugged and was doing until anxiety had gone. That was a thing to get over for Takako.
Rintaro is already my family. I want to let the paradise where the boy escaped realize that it is not a real world.
I think that what I need is a feeling and warmth than words. That 's enough thought to be transmitted.

The things to remember are the little affection of daily life. If you even recall it, you will steadily step on the reality the boy will walk from now.
I want you to remember warmth. It has left such a thing. To live.

Takako stood closely with Rintaro, waiting for the boy to reform the area with his own power. If left unattended, the boy may be losing its radiance with her being shut up in paradise. But someone can not be pulled out of paradise.
You only have to recreate the world on your own. Everyday little affection is waiting for the time of its budding to come in the back of the heart. There is nothing to remember except that.


The moonlight is illuminating the boy who began to breathe quietly.
Takako pulled the curtain and gently quit the room. Everyday is a day to face life. I did not rest for myself who chose it.
But that was also a request for Takako. I can not stop doing nothing. Takako was in touch with the children everyday without knowing what to make it so.

I have no children and no companions.
There is not any translation, but being able to live alone may have kept him married so far, and may be conscious of somewhere that there is no parent. In the meantime, it passed mid-way. Takako was doing fine with his life. I think that it is a natural flow.

Even I can not stop myself from doing something. This is my house. I just want to do what I can. I think that it may not be enough. I do not know why.
When I am in contact with my children, the power comes up any number of times.

As the fountain springs up, the fountain springs spring as much as it can face the children. Takako is very pleased about that. I thanked the sky for that.

A round moon floated in the sky. Gravity was full of the world.

流星のうた 第16話 Song of the meteor 16


第16話


美和から電話があった時、タナベは母親の見舞いで病院にいた。夕方の少し遅い時間だった。タナベは着信に気づかずに母親のベッドの脇の椅子に腰掛け、本を読んでいた。
母親は末期の癌で余命を宣告されていた。

タナベが小さい頃に父親が亡くなり、その後、母親は再婚をすることもなかった。
タナベは母親と二人で生きてきた。女手一つで子育てをするのは並大抵ではなかったはずだ。昼間の仕事の他にも、深夜のコンビニエンスストアで働くこともあった。

タナベは高校に入るとすぐにアルバイトをした。少しでも母親の助けになりたいと思った。学費もなんとか自分で稼ぎたいと思っていた。早く楽をさせてあげたい。タナベはいつもそう思っていた。

小さな中古車販売店に就職して、なんとか母親に無理をさせないでいられると思っていた矢先に、母親が倒れたのだ。

病床に伏せってしまった母親に、タナベは毎日会いに来た。
若さもあり癌はあっという間に体のあちこちに転移して、ほんの数ヶ月で母親の日常を奪っていった。今は対処療法を施しているだけだ。
ここ数日は高熱が続いたせいか、母親はぐっすりと眠っていた。

タナベは母親の脇で本を読んだり、ノートを広げたりして時間を潰した。眠っている母親の側にただ居るだけだったが、そうしていると自然と自分も安らいだ。
タナベは仕事が終わると毎日病院でそんな時間を過ごしていた。

日も暮れてきたので、ぐっすり眠る母親に一言声をかけてから病院を出た。


美和から着信が入っていた。

「電話では話せない」と美和はいった。 タナベは駅前のドトールで美和と落ち合うことにした。

店はサラリーマンや学生で混み合っていた。二階の隅に二人分の席を見つけ、タナベと美和は向かい合わせにテーブルについた。

「つまり、サポを見つけないと始まらないってことだな」タナベは一通りの説明が終わるとそう聞いた。
「そうみたい」と美和がいった。「それで、そこから先はわからない」とタナベは確認した。
「うん、でっかい龍を起こすみたい」と美和はいった。
「起こし方がわからない」
「そういうこと」と美和はいった。
「それで、美和は全面的にその話を信じてる」とタナベがいった。「毛が生えてた、人間の毛じゃなかったし、部屋を出てく時、窓から隣の建物までジャンプした」と美和は説明した。

タナベは腕組みをしてしばらく考えていた。最大限の想像力を働かせて現実とのすり合わせを試みていた。とりあえずは、葵のその変化というのを見てみないとなんとも言えない。
タナベは自分の思考がある程度のところまで行くと、現実というボーダーラインの瀬戸際でブレーキがかかるのを感じていた。タナベは自分が現実主義なんだとつくづく思う。




美和は、考え込んでいるタナベを見て、やっぱりそういうリアクションかと思った。
無理もないとも思ったが、タナベはちょっと考えすぎるというか、ギターのソロにしても頭で考えすぎなのだ。もっとノリで音を出してもいいくらいだ。

「それで、美和は協力するんだな、葵に」とタナベはいった。
「うん、一週間に一度バッテリーの受け渡しをする」美和はそう言いながらタナベを見た。「それで、俺にも手伝えっていうんだな」
美和はこくりと頷いた。「約束の時間が夜中だから車かバイクがいるの、場所は六甲山の山の中」

タナベがまた腕組みしそうだったので以前映画で見たセリフを真似て言ってみた。

「考えるな、感じろ!」

「なにそれ?」とタナベが聞いた。

「ブルースリーの名言」と美和は言った。






タナベはほぼ美和に押し切られる形で計画の共謀者になった。


「それで葵とは一週間後、会うことになってるの」美和はそう言ってアイスコーヒーを飲み干した。

「来てくれる?」
「どこに?」
「下見。葵と二人で行って確認したわけじゃないから、葵が言う池と私が知ってる池が同じか確認しに行く」
「今から?」とタナベは聞いた。
「夜になって丁度いいでしょ。感じもつかみやすいし」と美和は言った。


葵が言う池は、確かに美和が以前見たことがある池の景色と同じだった。あまり大きくないその池は、赤松に囲まれて背の高い笹が池の周りで揺れていた。

美和が高校の山岳部の合宿で、六甲登山道を伝って数日間のキャンプしていた時、偶然見つけた池だった。背の高い笹に覆われて、登山道からは見えなかった。美和は用を足しに部員に一声かけて道から外れたのだ。

笹を分けて出たその池は、ほぼ円形に近い形をしていた。池の周囲は岩場になっていた。岩の淵まで笹が迫り、美和がかき分けて出てきた辺りだけに、少し開けた土のスペースが残っていた。
池は丸い空間を天に開け、赤松の群落がそれを縁取っていた。ソヨゴが赤松の間で風に揺れている。
美和は昼間見たその景色の、周囲の凜とした佇まいに圧倒され水の透明さに圧倒された。
水面には空が雲をたたえていた。笹は山肌を伝い斜面をずっと覆っていた。風になびくその姿は、緑の海のようだった。

池に流れ込む水筋が岩を巻きながら複雑にうねって斜面を下っていた。
丸い空間に描かれたその景色は、美和をしばらく呆然とさせた。
静寂の中に描かれたその風景は包み込むように美和を迎えた。
透明なその水は、風が吹くたびに波紋を広げ、水面に浮かぶ木の葉を押した。波紋に揺れる木の葉は、ゆっくりと池の対流に引き込まれていく。

池は水の透明さとは裏腹に、その深部が闇に吸い込まれていた。深さがわからない。恐ろしく深いようにも感じる。
地上で揺れる笹やソヨゴが雲と一緒に水面に映し出される。水に映し出されたその景色は、奥行きのない色をしていた。


美和はその不思議な風景をよく覚えていた。葵が言った池と同じだと思う。






Episode 16


When Miawa called, Tanabe was in the hospital with a visit by her mother. It was a bit late in the evening. Tanabe was sitting on a chair by the mother 's bed without reading the incoming call and was reading a book.
The mother was sentenced to life expectancy at the end of the cancer.

When Tanabe was small the father died, after that her mother never remarried.
Tanabe lived with her mother. It would not have been as common as raising children with one hand. Besides daytime work, I also worked at a convenience store in the late night.

Tanabe worked part-time as soon as she entered high school. I thought that I wanted to help my mother even a bit. I thought that I wanted to earn school fees by myself. I'd like to make enjoyment soon. Tanabe always thought so.

My mother fell down shortly after I got a job at a small secondhand car dealer and thought that I could manage to make my mother impossible.

Tanabe came to see her every morning when her mother fell down on the bed.
As young, cancer has spread quickly around the body in a matter of seconds, robbing her mother's daily life in just a few months. I'm doing counterbored therapy now.
Due to the high fever last several days, my mother slept soundly.

Tanabe read the book by the mother 's side and spread the notes to kill time. I was only at the sleeping mother, but when I was doing it, I am relaxed with nature and myself.
Tanabe stayed at such a hospital every day as he finished his work.

As the sun was getting dark, Tanabe left the hospital after a quick voice to a mother sleeping soundly.


Miwa had incoming calls.

"I can not speak on the phone," Miwa said. Tanabe decided to meet Miwa with Doutor in front of the station.

The store was crowded with salaried workers and students. I found a seat for two for the second floor corner, Tanabe and Miwa arrived at the table opposite each other.

"In other words, it will not start unless you find a supporter." Tanabe heard that after a brief explanation.
Miwa said "It looks like it." "So, I do not know the future from that point," Tanabe confirmed.
"Yeah, it looks like raising a big dragon," Miwa said.
"I do not know how to wake up"
Miwa said "That's it".
"So Miwa fully believes that story," Tanabe said. "Hair grew, it was not human hair, and when I left the room, I jumped from the window to the next building," Miwa explains.

Tanabe was thinking for a while with his arms folded. I tried to match with the reality by working the maximum imagination. For the time being, I can not say without looking at that change in Aoi.
Tanabe felt that the brakes were applied at the brink of the borderline of reality when his thought went to a certain extent. Tanabe thinks that he is realistic.




Miwa saw Tanabe thought in thought, after all, it was such a reaction.
I also thought it was unexpected, but Tanabe seems to be thinking a bit too much, or even thinking of soloing a guitar is too much thought in mind. You can put out more sound with more noise.

"So Miwa will cooperate, to Aoi," Tanabe said.
"Yeah, I will deliver the battery once a week" Miwa said that and saw Tanabe. "So, I'm also going to help you"
Miwa nodded as he caught me. "Because there is a car or motorcycle because the appointed time is in the middle of the night, the place is in the mountains of Mt. Rokko"

Tanabe seemed to be doing arms again so I tried to imitate the lines he saw in the movie before.

"Do not think, feel it!"

"What is that?" Tanabe asked.

Miwa said "Bruce Lee's word."






Tanabe became a conspirator of the plan in the form of being almost pushed by Miwa.


"So it is supposed to meet Aoi a week later," Miwa said that and drank ice coffee.

"Can you come?"
"Where?"
"Because I did not go check it with preview. Aoi, we will go to check if the pond that Aoi says is the same as the pond that I know"
"From now on," heard Tanabe.
"It is exactly right at night, I feel easy to grasp," Miwa said.


The pond which Aoi says is surely the same as the view of the pond that Miwa had seen before. The pond, which is not so big, was surrounded by red pine and a tall bamboo shook around the pond.

Miwa was a camp in a mountain high school high school, when I was camping for a few days through the Rokko climbing path, it was a coincidental pond. It was covered with a tall bamboo and could not be seen from the mountain trail. Miwa got out of the way as he gave a piece to his staff.

The pond which separated the bamboos had almost a circle shape. The surroundings of the pond were rocky. Bamboo approached the edge of the rock, and there was a little soil space opened just around where Miwa came out.
The pond opened a round space in the sky, and the akamatsu community bordered it. Soyogo is shaking in the wind between the red pine.
Miwa was overwhelmed by the transparency of the water, overwhelmed by the scenery which was surrounded by the scenery of the scenery seen in the daytime.
The sky was clapping the surface of the water. The bamboo shoots the mountains and covered the slope all along. It was like a green sea whose appearance in the wind caught the wind.

The water muscles flowing into the pond undulated complexly while rolling the rock and was going down the slope.
The scenery drawn in a round space made Miwa stupid for a while.
That landscape painted in silence wrapped in Miwa.
The transparent water spreads ripples every time the wind blows, pushing the leaves of the trees floating on the water. Leaves of trees swaying on ripples are slowly drawn into the convection of the pond.

The deep part of the pond was sucked into the dark, contrary to the transparency of the water. I do not know the depth. I feel it is terribly deep.
Bamboo trees and soyogo trembling on the ground are reflected on the surface of the water together with the clouds. The scenery reflected in the water was colorless with depth.


Miwa often remembered the strange landscape. I think it is the same as Aoi's pond.

流星のうた 第15話 Song of the meteor 15



第15話


葵は朝の早い時間に美和のアパートを出た。隣の建物から相楽園に抜けるルートが六甲山への近道だった。
靴はもうすぐに履けなくなるだろう、そう思って置いてきた。じきに裸足の方が走りやすくなる。靴を捨てることで自分の心にも整理がつく。
葵は窓に足をかけて隣の建物に飛んだ。

日の出前に以前見つけた赤松の枝のところまで来て、登ってくる太陽を見た。

朝日は明ける前々から世界を輝かせた。
太陽が昇る前に、世界は様々に色を宿した。
その色はそれぞれの色が宿る前の色。滲んだ青や滲んだ赤。境目のない色は柔らかいグラデーションの中に輝いている。

そして朝日が昇る。それぞれの色が鮮明になる。
あたしは鬼であり、眼下に広がる世界は人間の世界だ。

太陽の光は見える世界をはっきりと隔てていく。個々の存在をあからさまにして行く。
鬼と人間をくっきりと浮かび上がらせる。



葵は「星の話」を綴り始める。「思いを巡らすんだよ」とクンネは言った。

シキの振動を聞きなさい。 葵はそう書き始めた。






「シキの振動を聞きなさい」トカは双子が遊びに来るたびにそう言った。「シキはあんまりお喋りが得意じゃないから、その代わりシキの振動を聞いてあげるんだよ」
「聞いてる」「聞いてるっ」双子は決まってそう答えた。トカは少し心配なので双子が来るたびにそう言って聞かせたのだ。
「シキは大事なことは振動の方が伝えやすいって思ってるからね」
「知ってるもん」「知ってるもんっ」と双子は言った。

トットはそんなやり取りを見て思わずいつも笑ってしまう。トカはやれやれ、という表情をして、それでも後でにっこり笑ってしまう。
シキは二人の理解者で、双子はシキの親友だから。
言葉足らずの水の星の振動を双子は子守唄のように聞いた。 シキはいつも振動している。 それは命の振動だった。
シキと共に生きる命の振動だ。 命は響き合い、共鳴し合い、繋がっていく。
そんな命の振動がシキの振動と共鳴し、龍たちがそれを巡らせる。

双子は振動に抱かれて鳥や獣の歌を聴く。波や木々のざわめきを聞く。体に巡る血の音を聞く。 体内を巡る龍の歌を聴く。

シキを巡る水も大気も、自分を巡る水も大気も繋がって巡っている。


双子の記憶に、その音が刻まれる。













葵はその文章を保存して、携帯をポケットにしまった。

空にいる時、海にいる時、振動は水や大気を震わせて双子の心に響いた。その音は水の星に響き渡り、そこに生きる命を震わせた。
水の星が震える時、そこに生きる命も震えていた。

サポもその音を知っているはずだ。
「音」を言葉で表現するにはどうすればいいんだろう。うまく表現できればサポも気づいてくれるかもしれない。

心に響く音を言葉にできたら。


葵はその言葉を探しているうちに、ふと引力に引き落とされる。




あの時の重力が不意に葵を押しつぶしていく。


あれ以来、幾度となくその重力は葵を絶望の淵へと追いやった。


葵はあの屋上での仮死状態が度々起こることを受け入れるしかなかった。

不意に力が抜け、引力に抗えなくなる。
業火に焼かれる苦しみが全身を包む。
身体が動かなくなる。無抵抗な身体に引力が重くのしかかる。

そしてそれは、数時間の後に潮が引くようにゆっくりと遠ざかる。絶望から穏やかに解放される。
呼吸ができる時もあれば、呼吸が止まる時もあった。
呼吸が止まると意識はなくなり、仮死状態のようになっているみたいだ。

葵はその状態で、自ずと深く内に入っていく。鬼の理に触れ、業に触れ、苦しみの種に触れる。

自分がどういう存在なのかを、深く知ることになる。愛のなき場所で生き、人を嫌い、人に焦がれる。その姿が鬼なのだと知る。それは前世から面々と受け継がれた自分の魂が手に入れた様相なのだ。
魂が変わらなければ人間の姿にはなれない。

葵は自分の姿の訳を知る。今世からの鬼ではなく、過去世からの鬼なのだと。泥の中に生きて来たのだと。
そして気づいていく、身近な風や光に生かされているのだと。孤独ではないということ。
業火に焼かれる度に、さらに死ぬ度に、この世で生きながら転生を繰り返すように、その身を焼かれながら、生かされていることを知る。


無防備な魂に注がれる光は、生まれてくる度にいつも柔らかに身を包んでくれていた。
気づいても、気づかなくても。月はその光をいつも届けてくれていた。
夜に迷わないように。太陽はいつもそこにあると気づけるように。

葵はかつて自分に道を説いた人間たちを思い出していた。彼らの迷いのない言葉に射抜かれた魂を思い出していた。鬼の道理など、一睨みで御された。

鬼は、人間の魂の偉大さに気づくのに一千年の時が費やされたことに気づいた。




山に入って何度目かの夜、半分に欠けた月が雲間に見え隠れしていた。 「受け入れたんだね」とクンネが言った。
雲の間からクンネは葵に話しかけた。


葵は仮死状態から息を吹き返したところのようだった。

「クンネ・・・」葵は山の山腹の岩の上で息を吹き返した。
西宮市にほど近い六甲山の中でも険しい山肌が連なる場所だ。

木々は岩肌に根を伸ばし、岩は木々を抱えて山脈を支えていた。

「きれいな場所だね」とクンネは言った。

「ここはずっと昔からきれいな場所なんだよ、景色はどんどん変わっちゃうけど、ここは岩が守る場所だからね。人間も手出しできない岩が沢山あるところさ」

クンネはキラキラと岩肌を照らした。



「クンネ、あたし受け入れた」と葵は言った。

「知ってる。人間に助けられた」

「美和に」と葵は言った。

「人間ってすごいだろ」とクンネは言った。葵は黙ってうなづいた。




「大丈夫か?」と美和が言った。

大丈夫だ。 「ありがとう」 葵は一千年ぶりに心からそう言えた。






Episode 15


Aoi left Miwa 's apartment in the early hours of the morning. Route from neighboring building to Sagakuen was a shortcut to Rokko Mountain.
I have thought that shoes will not be available soon. As soon as barefoot becomes easier to run. By throwing off shoes you can also organize your heart.
Aoi flew over the window and flew to the next building.

I came up to the branches of red pine which I found before sunrise and saw the climbing sun.

The morning sun made the world shine from before the day we opened.
Before the sun went up, the world bore various colors.
The color is the color before each color is inhabited. Bleeding blue or bleeding red. The color without boundaries is shining in a soft gradation.

And the rising sun rises. Each color becomes clear.
I am a demon, the world spreading under my eyes is the human world.

The light of the sun clearly separates the visible world. Going abreast of individual existence.
Cast up the demons and humans clearly.



Aoi begins to spell "the story of the star". "Go through your thoughts," Kunne said.

Listen to the vibration of the shiki. Aoi started writing so.






"Listen to the vibration of the shiki" Toka said so whenever the twins come to play. "Shiki is not good at talking, so I will listen to the vibration of the shiki instead"
"I'm listening" "listening" The twins answered in a fixed way. Toka is a little worried so I said so whenever the twin comes.
"Shiki thinks that vibration is easier to convey than important things"
The twins said, "I know you" "I know you".

Tot always smiles unintentionally looking at such interaction. Toka is looking at me, I still smile a little later.
Shiki is an understanding person of two people, because twins are best friends of Shiki.
I heard the vibration of the star of the water short of words as twin as a lullaby. Siki is always vibrating. It was vibration of life.
It is the vibration of the life that lives with the shiki. Lives resonate, resonate, and connect.
The vibration of such a life resonates with the vibration of the shinkle, and the dragons can make it around.

The twins are embraced by the vibration and listen to the songs of birds and beasts. Listen to the ruffles of the waves and trees. Listen to the sound of blood over the body. Listen to the song of the dragon going around the body.

The water and atmosphere around the shiki, the water and the atmosphere surrounding us are connected and it is traveling around.


The twin's memories are engraved with the sound.













Aoi kept the sentences and put the cell phone in my pocket.

When in the sky, while in the sea, the vibration shuddered the water and the atmosphere and felt in the twins' hearts. That sound resonated with the star of water and shook the life that lives there.
When the water star trembled, the life to live there was trembling.

Suppo ought to know the sound.
How can I express "sound" with words? Supporters may notice it if they can express well.

If I can make words that resonate in my heart.


While searching for that word, Aoi is suddenly withdrawn from gravity.




The gravity at that time unexpectedly crushes Aoi.


Since then, its gravity repeatedly forced Aoi to the edge of despair.


Aoi had no choice but to accept that the state of death in that rooftime happens frequently.

Unexpectedly the force will come out, it will not resist the gravity.
The suffering burnt in the fire spreads the whole body.
My body does not move. The gravitational pull on the body without resistance.

And it slowly moves away as a tide draws after hours. It is gently released from despair.
There were times when I could breathe, and there were times when my breathing stopped.
When breathing stops, consciousness disappears and it seems to be like a suspended state.

In that state, Aoi naturally enters inside deeply. Touching discipline of the demons, touching the work, touching the seeds of suffering.

I will know more about what I am. I live in a place without love, I dislike people, I get soaked. I know that figure is a demon. It is the aspect that my soul inherited from the previous life gained.
If the soul does not change, it can not be a human figure.

Aoi knows the translation of her figure. It is not a demon from this world but a demon from the past world. He came living in the mud.
And it seems to be aware of it, it is made use of familiar wind and light. To say that it is not lonely.
Every time it is burned down by fire, knowing that it is living as it is burned, as it is living in this world, repeating reincarnation every time she dies.


Light poured into an unprotected soul always wrapped herself softly every time he was born.
Even if you notice it, you do not notice. The moon always delivered that light.
Do not get lost at night. Let us realize that the sun is always there.

Aoi remembered the people who preached the way to myself. I remembered the soul that was shot by their lost words. Demon's doctrine, etc. was performed with a glare.

Oni realized that a thousand years was spent to notice the greatness of the human soul.




A few nights when I entered the mountain, a moon lacking in half was seen and hiding in the clouds. "I accepted it," Kunne said.
Kunne spoke to Aoi from among the clouds.


Aoi seemed to be breathing back from a state of death.

"Kunne ..." Aoi breathed a breath on the rocks on the mountainside of the mountain.
It is a place where rugged mountains are continued even though it is close to Nishinomiya.

The trees spread their roots on the rocks, the rocks supported the mountains with the trees.

"It's a beautiful place," Kunne said.

"It's been a beautiful place since long ago, the scenery will change more and more, because here is the place where the rock protects, there are plenty of rocks that humans can not hand out"

Kunne illuminated the sparkling and rocky skin.



"Kunne, I accepted you," Aoi said.

"I know, it was helped by humans"

Aoi said "to Miwa".

"People are amazing," Kunne said. Aoi silently nodded.




Miwa said "Are you OK?"

Should be fine. "Thank you" Aoi said so sincerely for the first time in a thousand years.

流星のうた 第14話 Song of the meteor 14



第14話


現実の世界で新たに書き加えられる少年の記憶は、窓の外の景色と花瓶の花。
花の記憶。
魂の池に浮かぶのは、汚れのない癒しの記憶。そこにいる限り、自分は守られている。
少年は、その新しい現実の記憶に安堵していた。綺麗なものだけがそこにはある。

少年は現実をそんなもので書き加えながらその中に安住した。
美しい世界には風や鳥の音しか響かなかった。そこは、少年が作り上げた楽園だった。

貴子はそんな少年の世界に寄り添った。
花を置くとき話しかける言葉が、ささやかに少年の心を揺らせているようなのだ。
少年は、夢の中にそのほとんどを置いて現実を生きようとしている。それが少年が逃げ込んだ場所なのだ。その場所にそっと花を置き、言葉を向ける。ささやかに何かが揺れる。言葉にならないその何かを、じっと聞き取ろうとしてみる。

貴子は自分が向ける言葉が、少年が置いてきた感情の付属物なのかもしれないと思う。たわいもない日常会話や挨拶だ。
でも花と共にそれを向けた時、わずかに揺れる感情が喜びを含んでいることを感じる。その喜びの感情は、貴子の心にもささやかに広がっていく。

違う世界にいたとしても、感情の波紋を手繰れば、そこにつながり合う心はある。それは貴子にとっては確信みたいなものだった。世界はつながっている。信じるしかないのだ。
思いは必ず届くと。

凛太朗は花の記憶の中に揺れる言葉の記憶の断片を見つける。

母親がもらう花束には、たくさんの祝辞や感謝の言霊が詰まっていた。

プロの歌手として歌っていた頃の母親がもらった花だ。

自分を愛せなくなってからの母親がもらったのは慰めの花たちだ。病院に飾られていた花たちだ。

花は言葉の断片を運び、想いをその場所に咲かせる。

貴子が運ぶ花から凛太朗はその想いが揺れるのを感じた。














靴がもう直ぐ履けなくなるだろうから、といって葵は裸足のまま出て行った。窓から隣の建物に飛び移った。なんとなく見ていたが、後でそれが現実だったのか、わからなくなってきた。

美和は、葵の話は少しオーバーだが、自分に関係なくもないとも思った。

そして葵のように身一つで生きられるのは少し羨ましいとも思った。人間の生活は物が多すぎる。本来は、動物のように何も持たなかったのだろう。
毛に包まれた身体も悪くないんだろうなと思う。
考えてみれば服を着るなんて不自然なことかもしれない。野生ではありえない。 人間は野生ではないんだな、と美和は思う。

美和は朝のキッチンで熱いコーヒーを入れた。
さてどうしたものか、この件に関して自分がどうこうできる訳ではないが、世界中から記憶のない人間を一人探し出すのは不可能に思える。確率からいっても限りなくゼロに近い。
見つけたとして、その後どうするのかということもわからないようだ。
どうする気なんだろう。 コーヒーを飲みながら、美和はトットの目覚めについて思いを巡らせた。

月の龍か。そういうのが目を覚ますとどうなるんだろう。今のところSF映画みたいな想像しか思い浮かばない。
そしてもう一口、熱いコーヒーを飲んでから鬼について想像してみた。大昔の架空の生き物だと思っていたものだ。想像していたのとはだいぶ違うが、リアルさはあった。変化するんだな、獣に。

自分一人で抱えきれそうにもないな。
美和はタナベに電話をして「電話で説明できそうにない」と言った。




Episode 14


The memory of a boy newly added in the real world is the flower of a vase with scenery outside the window.
Flower memories.
It floats in the pond of the soul, a memory of soothing healing. As long as I am there, I am protected.
The boy was relieved in the memory of the new reality. Only beautiful things are there.

The boy settled in the reality while writing it with such a thing.
In the beautiful world, only the sound of the wind and the birds echoed. It was a paradise that the boys made up.

Takako cuddled up with such a boy world.
It seems that the words spoken when placing flowers are modestly shaking the boy's heart.
The boy is trying to live the reality with most of it in his dreams. That is the place the boy ran away. Put the flowers softly at that place and turn the word. Something shakes modestly. I will try to listen to something that is not words.

Takako thinks that the word he / she turns may be an attachment to the feelings that the boy has placed. It is a cute everyday conversation and a greeting.
But when turning it with flowers, I feel that slightly shaking emotions include joy. The emotions of that joy will also spread mildly to Takako's heart.

Even if you are in a different world, there is a heart that connects to it if you handle the ripple of emotions. It was like Takako's conviction. The world is connected. There is no choice but to believe.
The mind surely arrives.

Rintaro finds pieces of memories of words that shake in the memory of flowers.
There were many speech of congratulation and gratitude packed in the bouquet that the mother gets. It is a flower a mother gave me when I was singing as a professional singer. It is comforting flowers that my mother got from being unable to love herself. They are flowers decorated in the hospital.
Flowers carry fragments of words and let their thoughts bloom at their place.
Rinutaro from Takako's flower felt his thoughts shake.








Aoi went out barefoot as it would not be possible to wear shoes anymore. I jumped from the window to the next building. Somehow I was watching, but later I became less sure if it was a reality.

Miwa thought that Aoi 's story is a bit overrunning, but he does not care about himself.

And I thought that I could envy himself a little like living with himself like Aoi. There are too many things in human life. Originally, it probably did not have anything like an animal.
I think that the body wrapped in hair is not bad either.
It may be unnatural to wear clothes if you think about it. It can not be wild. Miwa thinks that humans are not wild.

Miwa put hot coffee in the morning kitchen.
Well what's wrong, I can not do anything about this, but it seems impossible to find a man with no memory from all over the world. Even from the probability it is close to zero.
As I found it, it seems I do not know what to do after that.
What am I going to do? While drinking coffee, Miwa thought about Tot's awakening.
A moon dragon? I wonder what will happen if that wakes up. As far as my imagination like SF movies comes to mind.
And another bite, I drank hot coffee and imagined demons. I thought that it was a fictitious creature of ancient times. It was quite different from what I had imagined, but it was real. It's changing, to the beast.

I can hardly hold it by myself.
Miwa called up Tanabe and said, "I can not explain by telephone."

流星のうた 第13話 Song of the meteor 13



第13話


葵は美和の部屋を出た。 荷物はほとんど持っていない。 獣の姿になるのだ、もう服もそんなにいらない。

葵はアパートを出る前の夜に、美和に全てを打ち明けた。 鬼であること、一千年の記憶があること、サポを探してること。

美和はほとんど質問せずに、一通りの説明が終わるまでじっと葵の話を聞いていた。
葵が自分のことを話し始めたのだ。それだけでも驚いたが、その話がかなりぶっ飛んだ内容だったので、内心「マジでやばいかもしれない」と思っていた。

「・・・で、サポを探してるんだ」と葵は一旦話を切った。

美和は話の内容が頭の中でストーリーとして組み上がってないことを確認した。 
鬼とか月の子とかシキがどうとか、言葉としては入ってきたが、その言葉と葵がどう結びついているのか、わからなかった。言葉はただ単語として浮遊していた。

「もう一回話してくれる?」美和は腕組みをしながらそう言った。 アパートの狭いキッチンのテーブルに向かい合わせで座っていた。 少し開けた窓からは、街の雑踏が聞こえてくる。


「あたしは鬼なんだ。長い間人間を殺めてきた」
葵は結界を屋上に脱ぎ捨ててきた。 押し付けられていたコンクリートから立ち上がる時、美和が震わせた膜がボロボロと剥がれ落ち、無防備な自分になっていることに気づいた。 佐吉にもおりょうにも結局打ち明けられなかった。だから美和には打ち明けたいと思った。 それはエゴかもしれない。 でも美和には聞いてほしい。

「だからもう少ししたら獣の姿になってしまうんだ」と葵は言った。
「獣?!どんな?」美和は少し興奮してきている自分に気づいた。ぶっ飛んだ話はまず楽しもう、と決めた。 葵が姿形の話を終えると「そりゃ怖いな」といった。
「もう少しってどれくらい?」
「数ヶ月」と葵はいった。「変化してきてるんだ」そう言って葵は足の裏を美和の方に向けた。

美和はまじまじと葵の足を見た。指と指の間に硬い黒い毛が生えていた。人間の毛ではなさそうだった。
「屋上から帰ってきてから変化が始まったんだ。五年くらいは余裕があると思ってたんだけど、なぜか変化が始まってしまった」

「変化が始まった? 葵は何回もその変化をしてるの?」
「うん、人間を食べないでいると獣になるんだ。でもあの時それを受け入れたんだ」

「ふむ」と美和は唸った。「深刻な問題だね」美和は、自分がもしそうだとしたらと考えると、葵と同じことをしたかもしれない、と思い至った。そんな姿で永遠に生きるなんて過酷すぎる。美和には想像の範囲を超えていた。

「いつも足首から下が変化し始めて、それが膝から下に広がってずっと上に上がってくる感じで」と葵は説明した。
「どれくらいで変わっちゃうの?」と美和は聞いた。
「たぶんこのままだと夏くらいには完全に変わるかな」と葵はいった。
「夏か・・・」美和はそう言っただけでその先が続かなかった。

二人はしばらくキッチンの蛍光灯の下でそれぞれの思いの中にふけっていた。 ちらちらと蛍光灯はその光を振るわせていた。

「探す方法としては、『星の話』をネットに乗てせてるだけなんだね、今のところ」と美和は聞いた。「それしか思いつかない」と葵はいった。「範囲は世界中だもんな、特徴もわからないし年もわからない、70億人もいるんだからな、性別はわかるの?」
「その時は男だった」と葵はいった。
「じゃあ男なの?」「わからない」と葵はいった。「途方もないな」と美和はいった。
「その話、読んだとしても気づかないってこともあるよね」美和はいつの間にかサポを探すいい手はないか真剣に考え始めている自分に気づいた。 そこで少し、心に一呼吸入れた。

「それでこれからどうするの?」と葵に聞いた。
「獣の姿になれば山の中の方が暮らしやすいんだ。たぶんもう会うこともないと思う」
葵は人間の姿のうちに誰かに打ち明けられたことに感謝した。人間と話をするのも、もうこれで最後だろう。
「ちょっとそんなふうに言うなよ」と美和はいった。
「星の話もたぶん書けなくなると思う、街にはもう出られないから」と葵はいった。
う〜む、と美和は唸った。「そうなったらお手上げだね」と言ってみた。そうならないためには葵の携帯を生かしておく必要がある。
それなら方法はある、と思った。
「たぶんそれはなんとかすれば、なんとかなると思うよ」
「そうなの?」
「まあ、なんとでもなるよ、それで、連絡方法を決めよう」と美和はいった。

携帯も、何もかもがなくなってしまっても大丈夫なように、できるだけシンプルに考えた。

一週間に一度、六甲山の二人で決めた待ち合わせ場所で会う。 そこで充電用バッテリーの受け渡しをする。

人間と鬼はチラチラと揺れる蛍光灯の下でそう約束をした。




Episode 13


Aoi left the room of Miwa. I have little baggage. Being a figure of a beast, I do not need much clothes any longer.

Aoi disclosed everything to Miwa on the night before leaving the apartment. Being a demon, having memories of a thousand years, looking for a supporter.

Miwa had hardly asked questions and heard the story of Aoi till the end of the explanation of the line.
Aoi began to talk about himself. Even so, I was surprised, but because that story was a pretty flying content, I thought that it might be mediocre with internal medicine.

"... I am looking for a supporter," Aoi talked about once.

Miwa confirmed that the content of the story did not set up as a story in her head.
Demons and sons of the moon and shiki came in as words, but I did not know how the word and Aoi are tied together. The words were just floating as words.

"Miwa said that while doing armpit? I sat face to face with the narrow kitchen table in the apartment. From the window which opened a little, the crowded streets of the city come to be heard.


"I am a demon, I've been killing humans for a long time."
Aoi has torn the barrier to the rooftop. When standing up from the concrete being pressed, I noticed that Miwa's trembling film fell off and fell off and it became defenseless himself. Neither Sakichi nor the girl was eventually confident. So I wanted to confess to Miwa. It may be an ego. But I want Miwa to listen.

"So it will be in the form of a beast a little more," Aoi said.
"Beast? What kind?" Miwa noticed himself being a little excited. I decided to have a fun story first. When Aoi finished talking about its form, he said "That's a bamboo monster".
"How long is it?"
"A few months," Aoi said. "Aoi has turned to the side of Miwa with his feet behind.

Miwa saw Aoi 's legs with a whiff. There was hard black hair between the fingers. It seemed not to be human hair.
"Changes began after we came back from the rooftops I thought that we could afford five years or so, but the change has begun for some reason"

"Has the change started, Aoi has changed that many times?"
"Yeah, when you do not eat humans you become a beast, but I accepted it at that time."

"Hmm" and Miawa groaned. "It is a serious matter," Miwa thought that if he thought of that, he might have done the same thing as Aoi. It is too hard to live forever in such an appearance. Miwa exceeded the range of imagination.

"It always feels like the bottom begins to change from the ankle, it spreads down from the knees and rises all the way up," Aoi explained.
"How long will it change," Miwa asked.
"Maybe perfectly in the summer as it is," Aoi said.
"In the summer ..." Miwa said that just because he said so.

They were indulging in their own thoughts under the fluorescent light of the kitchen for a while. Fluorescent and fluorescent lights were shining that light.

"As a method of searching, I'm just letting the" talk of the stars "on the net, right now," heard Miwa. "It only came up with," Aoi said. "The range is all over the world, I do not understand the features, I do not know the year, there are seven billion people, can you tell me the gender?"
"At that time it was a man," Aoi said.
"Well then a man?" "I do not know," Aoi said. Miwa said "Extraordinary".
"That story, sometimes I do not notice even if I read it," Miwa noticed himself who is starting seriously thinking whether there are good hands to find a supporter unnoticed. So I breathed a little in my heart.

"So what are you going to do now?" I asked Aoi.
"In the shape of a beast, it is easier to live in the mountains. Maybe I will not meet again."
Aoi thanked me for being told to someone in the way of human beings. It will be the last time to talk to humans.
"Do not say such a thing a little", Miwa said.
"I think that it is probably impossible to write a star's story, I can not go out to the city anymore," Aoi said.
Muwa groaned, Muma said. I tried saying "I will give up if it does." In order not to be able to do so it is necessary to make use of Aoi 's mobile.
Then I thought there was a way.
"Perhaps it will do something, I think I will manage somehow."
"Is that so?"
"Well, I will do whatever, so let's decide how to contact," Miwa said.

Mobile also thought as simple as possible, as it seems all right even if everything is gone.

I meet at a meeting place decided by two people at Rokko Mountain once a week. I hand over the battery for charging.

Humans and demons promised so under flickering fluorescent lights with glitter.

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