趣味で歌と小説と詩を掲載させていただいてます。

桜童子 第21話



陸奥の鬼の物語

 あたしはもはや人ではない。
 全身には冬毛がびっしりと生え、爪は鋭く尖り、口は耳のあたりまで裂けた。
あたしの真っ白な冬毛は泥を吸い、雪に洗われてその白さを増してゆく。 
 冬山と同化したあたしの身体は、あたしの意識も冬山に導く。身体と意識が同化する。あたしは冬山そのものになっていく。

 沢の流れが身体を巡る。木々の木霊が鳴り響く。山の呼吸があたしの呼吸と同化する。あたしの呼吸は、あたしの魂の呼吸。山の魂の呼吸。
 あたしは一呼吸ごとに、山の魂と同化してゆく。

   あたしは冬山と同化して、その自然の調律を知る。その調べを歌うように、あたしは毎日の仕事を淡々とこなす。毎日、日、一日を、その調べが示すように生きる。

 朝起きて、山との同化の祈りを捧げ、沢や谷の調律をする。
 森は自分で調律もするが、それは森が人間に荒らされる前の話だ。人間は森の木を切り、道をつくり、田畑を広げ、川を治水する。
 人間はそうやって森の調律を狂わせる。この陸奥の山々も、里で狂わせた人間の調律に、自然の治癒力を奪われていく。
 あたしはその狂った森の調律を、一つ一つ治していく。岩を動かし、枝を折り、森の呼吸と風の調べを聴く。
谷の深い呼吸を聴いて、夕なの時に祈りを捧げ、暗闇と共に深い眠りに落ちていく。神経の根を森に広げて、あたしは陸奥の山々と同化する。




 あたしの暮らしは人らしくもある。修繕した家はこじんまりとし、囲炉裏にも火が入る。すすきで葺いた草屋根も、泥で塗った土壁も、あたしらしくて気に入っている。
 人の暮らしで覚えた術は、あたしに人らしく生きることを教えてくれる。
人の心を保つ術は、日々の生活の中にあるのだと知る。家を直し、物を手入れし、食べ物に、生かしてもらえることを感謝する。

 人のように生きることを、あたしは佐吉に教わったのだ。毎日を丁寧に生き、物に宿った神様を、自分ごとのように大切にし、人に慈愛を向ける人であった。こんなあたしにも愛情を与えてくれ、守ってくれていた。
 あたしは、佐吉の残してくれた愛情に、今も守られている。暖かな思い出が、今もあたしの心を暖めてくれる。
凍てつく吹雪の日がいくら続いても、この暖かさはたぶんずっと、あたしの中であたしを暖め続けてくれるだろう。
 あたしも、佐吉の魂を暖めてあげたいと思う。佐吉の魂を守りたいと思う。
祈りにも似たこの思いは、空に溶けていった佐吉の魂を暖めているだろうか。 
 あたしは空に向かい、佐吉の魂に向かい祈りを捧げる。どうか安らかで、健やかであってほしい。あたしは空に気を向ける。どうか受け取ってほしいと願いを込める。

 あたしはそうやって、あたしの調べを奏でていく。あたしの調べは森の調べと調和して、星の調べの音となる。星の調べは空の調べと調和して、思いや願いを空に巡らす。願いは一筋の龍となって、大空に昇っていく。そして、あたしは思いが届くのを知る。願いが叶うのを知る。
佐吉の願いも、叶うことを知る。佐吉の魂が救われるのを知る。
 思いは巡って、あたしの元に帰ってくる。

 思いは巡って、佐吉の魂を、あたしはずっと暖め続けると知る。

 それは確かに、鬼の心に宿った愛なのだ。

 あたしは狂った獣だが、あたしの心にも愛が宿ることを知る。

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