趣味で歌と小説と詩を掲載させていただいてます。

桜童子 第19話



ちづの物語

「鬼のちづの回想記」


 鬼が「百年桜」の根元から這い出た跡を、寺の小僧が見つけ、寺では祟りよけの読経が十二夜続いた。
 あたしは寺を祟る気はない。
 寺は鬼が這い出た跡に塚をつくり、地涌の鬼の神体として、永年丁寧に祀った。


 あたしは、あの百年間眠った塚に、自分の一部を置いてきた。
 共に伸ばした神経の根は、百年桜の根と絡み、あたしの一部も桜となった。 
 桜となったあたしの一部は、その後も桜とそこにいて、身延の山の音を聴き、寺の僧たちの読経を聞いた。
 あたしの一部はそうやって、今も山寺の境内で、静かにゆっくり時を刻んでいる。

 あたしが這い出た世界では、また一つ時代が進んでいた。

 北の天人と南の天人が、人を従えて六十余年争った。南北朝の時代である。   やがて朝廷が京都に落ち着き、武力の時代がやってきた。


     あたしはずっと人の世を、斜に見ながら生きてきた。諸悪の根源にあるものは、この人間の欲と毒。天下を取ろうと蠢き合い、悪人どもが集まって、民衆を操る術を練る。いつの時代もそうなのだ。

 あたしは、あたしの一部を桜に残し、共に大地に根を張り、世を渡る。

 鬼のあたしと桜のあたしは同じ時代に共に生き、お互いの半分をそこに宿す。
それは、光の部分と闇の部分。動の部分と静の部分。正の部分と邪の部分。共に生き、共に世を渡る。


 「動」のあたしが、静なる暮らしを送る時。あたしの体は鬼になり、すべての流れと調和する。

 あたしに静かな時が訪れたのは、江戸の恋が終わってからだ。




 佐吉に死なれたあと、あたしは人の毒気に嫌気がさして、陸奥国のさらに奥の廃村に入っていった。

 時は睦月の豪雪の季節。
 あたしはわざわざ、豪雪の中に身を置きたかった。
 雪に埋もれてしまいたかった。

   七夜ほど、あたしは本当にそうして雪に埋もれてじっとしていた。

 じっと、雪に埋もれていると、身延の桜に残してきたあたしの一部と繋がっていく。桜の記憶が、あたしに聞こえてくる。あたしはそうやって七夜の時を桜と過ごし、晴れた朝、雪を掘り起こした。

 雪は、きらきらと朝日に照らされて空中を舞う。あたしは安堵に包まれる。静まり返った森が、深く険しくどこまでもうねっている。龍のうねりにも似たその形状は、奥山との結界を張る。神の住む地だ。

 あたしはそのまま、森の奏でる音を聴く。森の奏でる音は星の対流の調べ、地の動く音。大地の呻き、木々の呻き、岩の呻き。
 龍がそれに応えて鳴く。龍の調べは巡る音。風の音、水の音、水と風の音。
 森の音は星の音。龍の音は星の息づかい。

 あたしは自分の音を奏でながら、その音の止む瞬間を探り出す。星の息づかいが、ぴたりと止まる瞬間に、あたしはするりと、あちら側に意識を滑り込ませる。
 あたしはそうすることで、森の裏側に行く。その世界では、あたしの刃が虹色に輝く。意識はどこにでも飛んで行き、時間も、空間も、超える。

   あたしは過去に生き、現在に生き、未来に生きる。時間の渦に流される。   
あたしという時間は、ささやかな一筋の流れとなって、足元に戻ってくる。

 すべてが繋がっていて、すべてが我が事で、すべてに意味を見出せると知る。

 あたしの魂は知る。


 自分の音を奏でればいい。

 あたしの牙は虹色に輝く。あたしは、あたしを受け入れる。

 あたしは狂った獣だが、自分の居場所をやっと見つけたのだ。
 この深い森の麓に。

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