kayagreenの経営者ですが、仕事ばっかりはしていられませんね。
実は歌うたい、文章書きでもあります。
15歳で初めてアコースティックギターを手にし、作詞、作曲、弾き語りを始める。
その後、レゲエバンド400yearsを立ち上げ神戸を拠点に活動。
同時にベーシストとしてブルース、R&B、ハードロックなどの数々のバンドを経験。
21歳の時、神戸のジーベックホールで行われたアマチュアバンドコンクールでベストベーシスト賞を受賞。
ジャズの歌唱に興味を抱き、ジャズボーカリスト大森浩子に2年間師事。
2008年に「日本語の歌が歌いたい」という理由で、 ふうよう という名でソロ活動開始、小説も執筆。
関西を拠点に活動中。

リンの中のあおい


リンの中のあおい
 かすかに聴こえる。確かにあおいは歌っている。
あおいは綺麗な膜の中にいて、自分と他人をはっきりと区別する。
他の何とも決して混じり合うことは無い。あおいだけの聖域だ。いつか見た、あのオーラを持った蛾のように。  リンは、その女の人に連れられ、病院へ行った。その道中、リンの耳には、母親の歌声とあおいの歌声が、同時に重なって、また、別々に入れ替わりながら、聞こえた。
 母親は、霊安室に冷たく横たわっていた。知らない人に母親かどうか訊かれ、そうだと返事をした。送ってくれた女の人は、今日は私の家に泊まるといいと言ってくれたが、断り、アパートまで送ってもらった。誰かよく知らない人の家になんて行きたくなかった。ひとりになったとしても、母親と暮らしたアパートに戻りたかった。
もう誰もいないアパートのドアを開けた。誰もいない部屋にひとりで帰るのは慣れていた。ほとんど毎日がそうだった。でも今は、このまま眠ってしまっても布団を優しく掛けてくれる人は誰も居ない。
 がらんとした部屋には、椅子が倒れたまま、もう座る人のないかのように、じっと、横たわっていた。  しばらく、何もせず、身動きもせず、じっと倒れた椅子を見ていた。
ひとりになってしまったんだと、静寂が、教えてくれた。
ついさっき、誕生日のケーキを一緒に食べたばかりの母親がもういない。
ロウソクの明かりに向かい合っていた母親が、今はもういない。静寂が音もたてずに、事実を伝えていた。
 ずっと、じっと静寂の中に居た。
世界中が眠っているようだった。そして世界は、母親が死んだことを知らないのだ。母親は、いつもどこか悲しそうな目をしていた。今の自分はどうだろう。母親と同じ目をしているだろうか。悲しかった。胸が張り裂けそうだった。でも、霊安室でも、車の中でも、涙は出なかった。今もそうだ。
ただただ、静寂を受け入れ、母親の死を受け入れ、ひとりだという事実を受け入れるだけで精一杯で、身体が動かない・・・。
 冷蔵庫のモーターがまたブンと鳴った。そして聴こえて来た。見えて来た。銀色の膜の中から、蜘蛛の糸を引き裂いて。
あおいの声だ。
あのライブハウスを引き裂いていた声だ。
あの窓から見える、ネオンの光の方から聴こえたんだ。
?あおい? 

その声に近付きたかったんだ。その声は、さっきヘッドフォンで聴いた、母親の声だ。  リンは、部屋から駆け出した。
アパートの階段を大きな音をたてて駆け下りた。
錆び付いた階段を降りると、向かいの小さな庭に繋がれた犬が吠えたので、近くにあった子供用の自転車で木の扉を壊し、犬の首輪を外した。
犬は一直線に闇の中へと消えて行き、犬が消えた闇の方へ「走れ!」と大声で叫ぶと、自分の中の何かが猛スピードで海へ向かって滑り始めた。
                      僕は、お母さんと同じ目をしているか?
 街灯に蛾が群れている。こんな夜中に街の光に人が群れている。すれ違う人、人、人。蛾の大群に光をぼやかされたような目をしている。
 お母さんの目とは違う。悲しげなお母さんは、それでも何かと戦い、くぐり抜け、耐えていた。昔、僕が生まれる前、お母さんは歌を歌っていたんだ。何がお母さんから、歌を取り上げたのか、自分から歌を捨てたのか、それは解らない。でも、僕にだけは、歌ってくれていたね。あおいが教えてくれたよ。
 お母さんが戦っていると、僕は感じていたよ。
ひとりで部屋にいる時、公園の林の中で、日の暮れた校庭で、僕はお母さんの気配を感じた。『声』が去った後、お母さんは僕を抱きしめようとした。
僕はそんな気配を感じながら、いつも綺麗なもの、美しいもの、そして、強いものを見つけて来た。お母さんは、僕の肩に手をかけながら、そんないろんなものを一緒に見つけたんだ。  それが、お母さんの戦いだったんだ。  風が変わったような気がした。風は海から吹いている。湿っぽい海の匂いがする。その中に化粧品のような匂いが混ざっている。母親が背後に居るような気配がする。  あおいが歌っているような気がするんだ。たぶん海の方で。  今あおいの歌がはっきりと聞こえる。  海だ、とリンは思った。そこであおいは歌っている。


 街はいろいろな光で満ちている。月の光が引力を持つように、あおいの光も引力を持っている。

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