kayagreenの経営者ですが、仕事ばっかりはしていられませんね。
実は歌うたい、文章書きでもあります。
15歳で初めてアコースティックギターを手にし、作詞、作曲、弾き語りを始める。
その後、レゲエバンド400yearsを立ち上げ神戸を拠点に活動。
同時にベーシストとしてブルース、R&B、ハードロックなどの数々のバンドを経験。
21歳の時、神戸のジーベックホールで行われたアマチュアバンドコンクールでベストベーシスト賞を受賞。
ジャズの歌唱に興味を抱き、ジャズボーカリスト大森浩子に2年間師事。
2008年に「日本語の歌が歌いたい」という理由で、 ふうよう という名でソロ活動開始、小説も執筆。
関西を拠点に活動中。

リンの物語(アパートの錆びた階段)


リンの物語(アパートの錆びた階段)  あおいに家まで送ってもらい、アパートの錆び付いた階段を上がる。
錆び付いて剥がれかけたペンキを高周波が震わせる。

耳が痛い。
『声』が後ろから忍び寄る。嫌なざわめきが、首筋をのぼる。
ドアを開けると、それはヘッドフォンから漏れていた。
高周波は、古い木造住宅の匂いと混ざり合い、無理やり意識のレベルを変えられる。アルコールと薬品の匂い。剥げかけたドアのペンキがノイズで静かに震えている。冷蔵庫のモーターがブンという音を立てて不意に鳴り始める。
 台所のチラチラと揺れる蛍光灯の青白い光の下に母親が座っていた。
紫色の母親の唇の間からは泡になった唾液が伏せたテーブルの上にこぼれ薬の包みや錠剤が床に落ちていた。母親は充血した目をわずかに開けこちらを見た。何も語りかけてこない、ただの悲しい目をしている。台所仕事をしたり、鏡に向かって化粧をしている時と同じ目だ。
 私は、力の限り、琳太郎に、最後の言葉を口にした。そして、全ては闇の中に落ちて行った。
 「ブルースよ」と母親が細い声で言うのと同時に椅子から崩れ落ち、ヘッドフォンのプラグが抜けてむちゃくちゃな音量で音楽が鳴り始める。
 頭が空っぽになり全ての感情が目を覚ます。「ブルースよ」と母親は言った。母親に感謝した。
 真夜中のステレオの大音量に驚いた近所の人が、慌てた様子で家に入って来た。その後何人もの大人が電話をかけたり、狭い部屋に出たり入ったりした。リンはその間床に転がったヘッドフォンをステレオにつなぎそこから流れる音楽に聞き入った。
 母親が歌っていた。母親の声だった。   [ ブルースよ ]
母親は歌う。 Straight No Chaser, Now ’ s The Time, Five SpotAfter Dark, Route 66 ,< そして、 My Funny Valentine. 嬉しかった。すぐ後ろに居るみたいに、母親の息づかいがリンの毛穴から身体の中に入り込んで来た。
 誰かが何かを言ったが今は音楽を聴いてたかった。母親の声は心を締め付けた  激しい感情が体中を駆け巡った。
My funnyvalentine < と母親は歌った。  母親を見ると、救急隊の人が来て、担架に母親を乗せ、何処かへ運び去ろうとしていた。リンは、言葉少ない母親は、病院に行くんだろうと思った。病院で、あの悲しそうな心を治してもらうんだろうと思った。  今ヘッドフォンから聞こえて来る母親の声は、自分の知っている母親ではなかった。若さが有り、堂々として、繊細で、力強かった。嬉しくて、何度も、何度も、繰り返し、その曲を聞いた。 My funny valentine 、母親は、伸びやかに、繊細に言葉を綴った。その歌は、自分に贈ってくれている。曲の始まる前の MC で、母親が言った。「この曲をお腹の中の息子に捧げます」前奏が始まる。何度も、何度も聴いた。  夜中、明け方近く、ずっとヘッドフォンをつけているリンの肩を、誰かがそっと触った。母親が死んだ、とその人は言った。遠い世界の言葉のようだった。母親は、悲しい心を治しに病院へ行ったのだ。それに、母親は、こんなに堂々として、力強い。
 ヘッドフォンをその人に手渡した。これが自分の母親なんだと。その人は母親と同じくらいの女の人で、ずっと泣いていた。母親の知り合いか、友人なのだろうか。ヘッドフォンから漏れる歌声を聞いて、その女の人は、リンを優しく抱きしめた。リンは抱きしめられながら、柔らかい胸の感触を感じた。リンの中で、何か固く、踏みしめられて固く、押さえつけられて固く、向こう側に行けない高い壁のように厚く、固いものが、崩れて行った。
 ・・・でも、階段は錆びてしまった。  もう、階段は錆びてしまった・・・。  錆び付いた階段は そこから何処へも行けないように  風を待つしか無いように そこへ閉じ込めるように  限りを尽くしても 風を待つしか無いように  柔らかな感触を 自分ではなく あの人に  閉ざされた世界からは 暗闇だけが見えて 訪ねる人は誰もいない  そして声も聞こえない   錆び行くまでの階段は 銀色に輝き 綺麗な色に染まって  安心と喜びを運んでいた 
その時には気付かない 
風雨に打たれて  あの人は歌う 喜びの歌を あの人は歌う 愛の歌を
 そしてその強さを 身体に響かせて その時には気付かないけれど    錆び付いた階段に足をかけてみようか? 風が無くても飛べるかも知れない  錆び付いた階段を歩いてみようか? 空を歩くように  あの人に教えてあげられれば あの人に伝えてあげられたら  悲しみの歌を あの人は歌う けれど閉ざされた世界には  悲しみの歌さえ聞こえない それにあなたは気付いたのだろう  聞こえない耳で 見えない目で あなたは   錆びた階段に足をかけたのだろう 崩れる事を知りながら  間違いとか正しいとかでは無く 再び聞こえる事を信じて  再び見える事を信じて そして再び歌える事を信じて

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