kayagreenの経営者ですが、仕事ばっかりはしていられませんね。
実は歌うたい、文章書きでもあります。
15歳で初めてアコースティックギターを手にし、作詞、作曲、弾き語りを始める。
その後、レゲエバンド400yearsを立ち上げ神戸を拠点に活動。
同時にベーシストとしてブルース、R&B、ハードロックなどの数々のバンドを経験。
21歳の時、神戸のジーベックホールで行われたアマチュアバンドコンクールでベストベーシスト賞を受賞。
ジャズの歌唱に興味を抱き、ジャズボーカリスト大森浩子に2年間師事。
2008年に「日本語の歌が歌いたい」という理由で、 ふうよう という名でソロ活動開始、小説も執筆。
関西を拠点に活動中。

小説 青い夢を見た時に10 あおいの部屋

あおいの部屋



 マイクに止まった蝶は、あのフロアの何物とも混ざり合わず、はっきりした輪郭で、シルバーの鎖のように輝いていた。そのフロアの中では異物だった。

 ステージが終わり、蝶の指の男の子に声をかけた。「名前はなんて言うの?」

 「りんたろう」と蝶の指の男の子は答えた。危険な場所に迷い込んだか弱い蝶のようだった。



 リンは自分のアパートとあまり変わらない古い錆び付いた鉄階段を上った。

 あおいの部屋は散らかっていた。本やCDや、何かを書き留めたノートやら、描きかけの絵や、写真。でもその散らかり方は、自然とそうなってしまった、という散らかり方だった。人の生活が息をしていた。

 あおいは本棚に並べられたCDを端から順に指を這わせながら調べている。

 窓際にいるリンに声をかける。あおいはリンの側へ行き、まっすぐで柔らかい髪を撫でる。並んで立つとあおいの顎の下くらいにリンの頭がある。部屋に、甘い女性ボーカルのヒップホップが流れ出す。あおいは曲にあわせて、ゆっくりと揺れるように踊ってみせる。リンはあおいの指先に塗られたメタリックなマニキュアを見る。女の人を見たような気がした。そのマニキュアは、蝶の羽根に浮いたきらきら光る粉を思わせる。あおいはリンの視線に気付き、胸の前で指を組んで見せる。

 「何を歌っていたの?」?Blues? 細い指を広げてマニキュアを見ながら言う。盲目的に女を愛する男の歌よ。そのまま歌いだしそうな言い方だった。

 CDが終わり、甘いボーカルは、リンとこの部屋を少し馴染ませた。あおいが部屋の隅にあったアコースティックギターを静かに弾きはじめた。

 My funny valentine とあおいは言った。sweet comic valentine you make me smile with my heart 〜 優しい歌声だった。

 幼い頃、同じような歌を聞いたことがあるような気がする。それはほんとに遠い昔で、母親の匂いと共によみがえる。柔らかい布に包まれて、ミルクを飲みながら、母親が子守唄のように、自分だけのためだけに、小さな声で、優しく揺れながら。その母親の歌声には大きな安心感があった。母親と自分は溶け合っていた。一つだった。『声』が聞こえるようになるまでは。

 いや、『声』は隠れていただけかも知れない。自分の背後か、母親の固い胸の中か、生まれた時からずっと、その時が来るまで。

 

不思議とその歌を覚えていた。細部はぼんやりしていたけれど、それでも聞き覚えのある歌だった。言葉ははっきりしないので、わかる所を除いてハミングしてあわせた。あおいと一緒に、ゆっくりと、ひと言一こと、あおいの言葉に意味を見いだせるように聴きながら歌った。あおいはリンのハミングに合わせて丁寧に一小節ずつギターを弾いた。

 あおいはこの曲が好きだった。バンドで歌うことも好きだけど、その時は、客を前にして、異様な空気の中、全てが曖昧にぼやけ、歪んでいた。あおいはそんな時、決してその中に溶け込んだりしたくなかった。



 何故なんだろう。

 それは、蝶の指を見た時、わかったような気がした。泥の中で見つけた綺麗な石ころ、浜辺で見つけたガラス片。自然の中で緑や草花は全部が一つにつながり、全部が景色の一部だ。街もライブハウスも、全部、それらの一部だ。リンは違っていた。際立っていた。泥の中の紫色に光る石ころのように異質で輝いていた。そうだよね、自分は自分でいたいよね。誰の真似もしたくないし、何かに溶け込んだりもしたくないよね。自分のギターに、たどたどしく合わせて歌うリンに、あおいは自分の一片を見つける。リンの歌声はあおいに不思議な驚きと感動を呼び覚ました。音楽の知識なんてなにも持っていないリンの歌声は、素朴で、飾り気が無く、一言ひとことが、水滴の一しずくのように、粒となって、部屋の中に浮かんでいた。

 あおいは、一人で自分のために歌う時、この曲をよく歌った。

 リンはゆっくりと一音一音少しつまずきながらも、曲を、音を、メロディーをたどるのが楽しくて、ずっと歌っていたい気持ちになった。

 ずっとこうやって、音と、曲と、戯れていたいと思った。

 そうだ、自分が探しいていたものは、こういうものだったのかと思い、キリン草の生い茂った空き地や、海岸のテトラポットの中や、新興住宅地の地下を通っている下水管の中には何も無かったけど、自分の声の中にそれがあったのだと気が付いた、それは、自分という存在を確かな感覚で感じることが出来た。

 何故か、自由になれたと思ったら救われ、太陽で温められた砂の中に手が埋もれて行くような安心感がリンを包んだ。

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