kayagreenの経営者ですが、仕事ばっかりはしていられませんね。
実は歌うたい、文章書きでもあります。
15歳で初めてアコースティックギターを手にし、作詞、作曲、弾き語りを始める。
その後、レゲエバンド400yearsを立ち上げ神戸を拠点に活動。
同時にベーシストとしてブルース、R&B、ハードロックなどの数々のバンドを経験。
21歳の時、神戸のジーベックホールで行われたアマチュアバンドコンクールでベストベーシスト賞を受賞。
ジャズの歌唱に興味を抱き、ジャズボーカリスト大森浩子に2年間師事。
2008年に「日本語の歌が歌いたい」という理由で、 ふうよう という名でソロ活動開始、小説も執筆。
関西を拠点に活動中。

小説 青い夢を見た時に9 母親の物語(違う自分、落とし穴)

母親の物語(違う自分、落とし穴)



 スピーカーから聞こえて来る声は、途切れそうな息子の足跡を追わせながら別のものの所へ連れて行く。空き地は時折ぽっかりと目の前に現れる時がある。昔の自分の歌を聞いていると不意にその場所へ迷い込んでしまう。地面に落ちているものは、今はもう着ることの無い舞台衣装。風にゆらゆらと揺れている。?目を閉じる? 空き地は消える。歌声だけが闇の中に残る。アパートの階段を駆け上がる足音。ドアをノックする。扉の向こうに人の気配がする。ガタンと郵便受けに何かを入れるような音がして人の気配は消える。シャツのボタンを一番上まで止めようとしている自分に気付く。周りの人間の沈黙の言葉が、今届いた封書の中に認められているような、そんな気がして、シャツの胸元をぎゅっと握りしめる。紙切れを拾い上げる。土埃で汚れた白い紙切れ。32。最後の舞台衣装の袖口に留められていた番号。足下に埃だらけのドレスが風に揺れている。背中が腰の辺りまで大きく開いた舞台衣装。ずっと向こうに昼下がりの太陽の光を眩しく反射させてスチールの衣装掛けがぽつんと立っている。この場所はいつも午後の太陽の光に包まれている。何故、この場所はこんなにも鮮明なのだろう。?目を閉じる? 紙切れは消える。スローなブルース。違う自分が歌っている。彼女は、怒りや、喜びや、悲しみや、愛情や、絶望や、何もかもをその歌の中に激しく、優しく織り込み、言葉一つ一つが踊り、血を流している。彼女は他人を幸せにすることも、深く傷つけることも出来るだろう。そして、柔らかく傷口に口づけることも。彼女は愛され、傷つけられ、その渦の中で歌う強さを持っている。そして、彼女は自分だった。まぎれもない、自分だった。

 彼女はまだ何も失ってはいなかった。

 病院で麻酔から覚め行く時、何の涙か解らない涙が出た。もうろうとした意識の中で、現実が再び色濃く、際立って来た時・・・。

 乳房を取らなければいけない。医者の言葉を聞いた時、その場所は、もう静かに渦を巻いて小さな暗い落とし穴のように自分の胸の中に、針の先程の場所を作りはじめたのかも知れない。

 二回目の手術の後、その場所はもうはっきりと胸の中に在った。ずっと眠っていたかった。もう、自分が自分で無くなってしまった。そう思わずにはいられなかった。スローな、よく琳太郎を抱きながら歌った曲を口にしてみた。虚空に向かって、落とし穴に向かって、空き地に向かって、歌は、口にした矢先から、響きを得る間もなくかき消えてしまった。jazzのさまざまな曲を聴いてみた。どの曲も、どんな曲も、胸に響く前に消えて行った。

 それは暗い底の無い落とし穴に吸い込まれるような感覚だった。

 選択肢はいろいろあった。しかしどの道を選んでも、どんな選択をしても結局は、乳房を失い、今の自分のように何も無い自分になってしまったのだろう。

 自分には、選ぶことが出来なかったのだ。

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